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第158話 エピローグ(1)
月日は流れ。僕はいよいよナイラム魔法学校を卒業する。
あのおじいちゃんたちを探す冒険から戻ってから、学校での僕の扱いがガラッと変わった。
レヴィ曰く、僕がいなくなった時、校長先生が記憶操作をして僕自身が存在しないことになっていたらしい。戻って来た時には、普通にいるクラスメイトの一人で長い休みを取ってただけ、みたいに、僕の悪い印象だけ除かれたみたい。おかげで、完全に無視されていた僕に、普通に話しかけてくるクラスメイトが増えていた。
一番は外見が変わったせいもあるかもしれない。さすがにレヴィやエミールほどには背は伸びなかったけれど、一時期はキアと並んでも遜色ないくらいには伸びた。まぁ、結局、彼に完全に追い抜かれてしまったけれど。
そして、やっぱり髪の色が完全に白金になってしまった。どんなに茶色をイメージして変身しても、この色になってしまうから、僕もいい加減、諦めた。
あと、やはり魔法を使えるようになったことが一番大きい気がする。頭でっかちと言われてた僕。だけど、理論が出来ていたおかげもあって、実技が伴ったせいか、先生方からの評価も上々。それを見たクラスメイトたちの見る目も変わった。
キアは相変わらず僕に対する態度は冷たい。彼も学校での記憶はなくなっていたけれど、僕たちと同じようなタイミングで学校に戻ったせいで、クラスメイトとしての記憶だけが存在するようになっていた。その上で、キアには僕たちの親同士の関係の記憶は残っているし、そして何より、僕がレヴィの婚約者だということで、距離を置いているようにも見えた。
実際、僕たちの婚約式にはキアもハザール家の代表ということで末席にいた。父親の事件のせいもあって、周囲の視線は厳しかったけれど、それを跳ね返すような鋭い視線で僕たちの式に立ち会っていたのを今でも覚えている。
『卒業生代表、ノア・アシュレー』
「はいっ」
おじいちゃん先生のハウンド先生が僕の名前を呼んだ。僕を車に乗せて、この学校に連れてきた、僕が初めて魔法使いという存在を知った、最初の人。あの時もかなり年配だと思っていたけれど、今も相変わらず、おじいちゃんだ。
僕が席を立ちあがり、壇上へと向かう時、いつもの厳めしい顔ではなく、初めて会った時のように優し気に微笑んでいた。
壇上に上がると目の前には、僕と同じように今日、この学校を卒業していく仲間たちがいる。このまま、この学校に残り、上級クラスへと上がっていく者、学校を出て魔法省や関連事業へと仕事に就く者と、それぞれだ。
そして僕は。
「最後に、ここまでご教示いただいた先生方に感謝の言葉を伝えたいと思います。ありがとうございました。卒業生代表、ノア・アシュレー」
拍手をしている人々の中に、僕の婚約者、レヴィ・シュライデンが満面の笑みで僕を見つめている。人間の姿ではあっても、獣人の国の礼装の緩やかなローブを羽織った姿は、周囲の視線を集めている。特に、女性たちの視線は釘付けだ。その様子に、一瞬、苛立ちを覚えるものの、あの人は僕のものなのだ、と自分自身に言い聞かせる。
その隣には、おじいちゃんとおばあちゃんが、穏やかな微笑みで僕を見つめている。二人は地味なスーツ姿のせいか、誰も二人が有名な大魔法使いだなんて気づいていない。
僕は、彼らが誇らしく思えるようになっているだろうか。
ゆっくりと壇上から降りると、僕は自分の席へと戻る。その間も、レヴィの温かい視線を感じて、僕はソワソワした気分になってしまった。
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