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第159話 エピローグ(2)
卒業式が終わると、一旦教室へと戻る僕たち。担任の先生からの最後の別れの言葉に、涙する者もいれば、清々しい顔をする者も。僕は後者で、いよいよ獣人の国でレヴィと共に生きることに、ワクワクしている。
生徒たちは互いに言葉を交わしながら、それぞれが家族の元へと帰っていく。僕も荷物を持って教室を出ようとした時、キア・ハザールが声をかけてきた。
今ではレヴィと同じくらい身体の大きなキア・ハザール。あの天使のように可愛らしい容貌は完全に消え去り、ナディル・ハザールそっくりの整った美しい顔立ちの彼が、僕を見下ろしている。
「ノア」
「……何?」
ちょっとだけ、キアが怖いと思ったのは、彼の声が、彼の父親の声とそっくりで、ひどく真剣な顔で僕を見下ろしているせい。まるで、あのナディル・ハザールが目の前に現れたみたいに思えて、身体が固まる。そんな俺に、何かを言おうと口を開いた時。
「おい。キア・ハザール」
レヴィが教室の外から声をかけてきた。壇上から見た時は、輝くような微笑みだったのに、今、そこにいるレヴィは、まるで蒼い瞳から冷気でも漂うような視線でキアを見つめている。
「レヴィ様……」
青ざめた顔でレヴィのほうを見るキア。僕はその隙にレヴィの元へと駆け寄る。キアには悪いけれど、やはり、あの嫌な思い出は消えそうにないから。
「お前は、親父の二の舞は演じるなよ」
冷ややかなレヴィの声に、キアは頭を項垂れる。その姿に、胸が少しだけ痛くなったけれど、僕はレヴィのローブに手を伸ばし、ギュッと握りしめる。
「ああ、そうだ」
僕の肩を抱きしめながら、レヴィは言葉を続ける。
「来週は我々の結婚式だ。もう、そちらにも通知はいっていると思うが。当然、キアもハザール家の代表として、顔を出してくれるだろうな」
そう。僕たちは結婚する。レヴィは僕の卒業まで待ってくれた。僕の方は、早く彼の元へと行きたかったけれど、僕がちゃんと魔法学校を卒業することが、母様とおじいちゃんたちの願いだったから。
「……はい」
「そうか。じゃあ、結婚式当日にな」
レヴィはキアを残して、僕の肩を押して教室を後にした。僕は学校の建物を出るまでずっと、レヴィのローブから手を放すことが出来なかった。
「やっぱり、キアのヤツ、ノアを狙っていやがったな」
忌々しそうな声で呟くレヴィに、僕はキョトンとしながら見上げる。
「何、言ってるの?」
「ん?ああ、お前は気づいていないなら、それでいい」
「え、なんか、納得いかないんだけど」
僕が拗ねたようなことを言うと、レヴィは苦笑いしながら、片手で僕の頬をぷにぷにと摘まむ。それはけして痛いものではなく、ちょっとじゃれてる風に優しくだから、僕も怒るに怒れない。
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