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 幸が今日一緒にいる子は、前回の女の子と比べると少し地味な感じ。失礼だけどそんなことを考えながら、俺は幸の隣の子を盗み見ていた。  黒く真っ直ぐな長い髪。それは普通のはずなのに、赤い髪をした幸の隣だと目立っている。不意に俺の視線に気づいた彼女がこっちを向いた。 「……!」  咄嗟に顔を背けてしまったのは、なんとなく気まずいからだ。だって、俺は幸が別の子を連れていたのを見てる。どっちが本命かは知らないけれど、なんとなく悪い気持ちになってしまった。 「幸くん、知り合い?」  俺が顔を背けたことなんて気にせず、彼女が幸に訊ねた。女の子の中の女の子って感じの声は、このピリピリとした雰囲気に合っていない。 「俺のー、オトモダチ」  ゆったりとした声で答えながら幸が1歩前に出る。すると俺から彼女は見えなくなった。それは、なんだか隠しているようにも思えた。きっと、俺にはあまり見られたくないんだろう。 「別の学校の子?うちでは見たことないね」 「まあ、うん。別にええやん」  立っていた場所から俺たちの元へと歩いてきた幸は、俺と万引き男との間に立った。幸は俺たち2人よりも背が高い。少し上から見下ろされる感覚に、ムッとなる。 「騒がしいと思ったら喧嘩中?うさまるは喧嘩売られそうな顔してるんやから、気をつけなあかんで」 「うるさい。2回会っただけのくせに、知ったようなこと言うな」 「あーもう。めっちゃ怒ってるやん。そこのお兄さん、うさまるに何したん?」  俺ではなく、男の方に幸が聞く。何も言っていなくても俺の味方についてくれた幸に、怒りが少し溶けていくのがわかった。 「うさまるはな、遊んでそうな見た目してるくせに真面目やねん。こんな外見やのに女の子苦手なんやで。人生損してるわ」 「おいチャラ男。余計なこと言ってんじゃねぇよ」 「そーんな真面目なうさまる君が、こーんな人前で喧嘩吹っかけるとは考えられへんねん。確かに喧嘩っ早いように見えるけど、でも気が小さいから目立ちたくないはずやねん」 「それ悪口だろ、絶対に」  ほぼ貶されている気がするけれど、貶しながらも幸ははっきりと口にする。悪いのは俺ではなく、お前の方だろうって言う。  何も知らない状況で、知らない相手に対しても。全くぶれることなく幸は続ける。 「ようわからんけど、喧嘩両成敗って言うしな。ほら、2人ともごめんなさい言うて仲良しこよしや」  太陽みたいに明るい笑顔で言った幸は、万引き男の肩に手を置いた。幸のタラシの能力は女の子だけじゃなく男にも発揮される。さすがチャラいけど間違いなくイケメン…………と、思っていたのだけど。 「関係ないやつが出しゃばってくんなよ。女の前でカッコつけたいのがバレバレで笑える」  バカにした様子を隠すことなく、万引き男は鼻で笑いながら幸の手を振り払った。それを見た俺は咄嗟に口を開くけれど、俺の声に被せるようにして明るい笑い声が響く。 「なんで分かるん?!俺、それよく言われるねん!カッコつけんな女好きとか、調子乗ってるとか。言われすぎて、もうネタみたいなもんやで!」  ケラケラ笑いながら言われる悪口を暴露する幸に、俺も男も戸惑った。幸本人は嫌そうな顔をしていなくて、どう反応したらいいのかわからない。 「でもなぁ、別にカッコつけてるわけちゃうねん。なんて言うかなぁ……自然と格好がついてまうんよなぁ」  男に振り払われた手で幸が前髪をかき上げた。一瞬だけ隠れた目元が再び現れた時、俺はその変化に目を見開いた。  常に笑っていた目が鋭く男を映す。今までは下がり気味だった眉は凛々しい。 「でもなぁ。俺から言わせたらぁ……」  呟く幸の声は、ちっとも甘ったるくなんてない。  蜂屋幸は赤髪で見た目も中身も明るくて、ずっと笑顔で。月が似合うリカちゃんと比べて、幸は太陽だと思っていたけど少し違った。  太陽は太陽でも、幸はお日様じゃなく燃えるような灼熱の塊だ。 「しょうもない顔してしょうもないこと言うて、そんなことしてるからモテへんねん。女連れやからって僻んでんちゃうぞ、アホ」  整った顔を顰めながら告げられた言葉は、聞き慣れない関西弁ともあってレベルが違う。 「欲求不満は喧嘩で発散せんと自分でなんとかせぇや。めっちゃ得意そうな顔してるやん、ひとりエッチ」  

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