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「どないしたん?急に黙って」  自分の勝手な想像に落ち込み、俯いた俺を覗きこむ影。心配そうな顔をした幸がじっとこちらを見つめてくる。そして、俺が答える前に小さく頷いた。 「わかった。俺に任せとき」 「……は?任せるって何を?」 「何も言わんでもわかるで。その顔は悩みがあるんやろ。俺がうさまるの相談に乗ったる」  有無を言わさず引っ張られていく身体。本屋からずっと幸に引きずられてきて、掴まれている腕が少し痛む。けれどそんなことは関係なく、赤髪野郎は突き進む。  周りの人に見られていることも気にせず、俺の制止の言葉も聞かず。何の影響も受けずに進んでたどり着いたのは、一件の店。  とてもとても、とても馴染みのあるファミレスだ。歩や拓海とよく行く店の系列店だ。 「こういう時はファミレスでドリンクバーだけ頼んで、とことん語るに限るで」 「知らねぇよ。俺、そんなのしたことないし」 「なんや。たっくんや歩と語り合えへんの?ハートとハートでぶつかり合わなあかんで!」  気づけば今日もまた幸のペースで、気づけばテーブルについている。それはこいつが強引なのと、特に断る理由がないからだ。  何も予定のない1日。偶然の再会に、助けてもらった恩もある。連絡先を交換していない俺たちがまた会ったのは、確率で言えば限りなく低い。全ての条件が揃っているこの状況が、奇跡みたいなもんだ。 「じゃあ、うさまるの初相談に乾杯しなあかんな。お祝いに何か頼む?」 「お前の奢りならな」 「マジで?けどお祝いなら奢りで当然かぁ…………うん、ええで。ここは俺が出す」  てっきり断られると思った冗談を受け入れ、幸が笑う。こいつの、こういうところは嫌いじゃないと思った。相手に気を遣わせず、そして相手を拒絶しないところ。その気持ちは重たくはないのに、でも軽すぎることがない。  ちょうどいいって表現が、本当にちょうどいい。  だから自然と話は弾んで、本当に相談会みたいになった。聞き上手な幸の相槌に俺は乗せられ、リカちゃんのことも話した。  もちろん、リカちゃんが男だってことは言っていない。年上で近くに住んでいて、付き合って半年ぐらいだってこと。相手の余裕さにイライラして、悔しくて、敵わないってこと。  一通り聞き終えた幸が、2杯目のウーロン茶を飲み干して口を開く。 「うさまるは幸せそうでええなぁ。なんだかんだ言うてラブラブやん」 「お前、ちゃんと俺の話聞いてた?聞いてたなら、そんな感想出ないと思うんだけど」 「やって、うさまるの言うてるんって、ほぼ惚気やん。相手がすごい人でめっちゃモテて、それが悔しくて、ヤキモチ妬いてまうってことやろ?」 「全然違う。俺は妬いてるんじゃなくて、あいつに怒ってるんだ」  ニヤニヤと笑われると言い返しても意味がなくて、幸から顔を背ける。けれどそんな俺の行動は逆効果だったようで、余計に幸を喜ばせるだけだ。 「うさまる可愛いな!俺が女の子やったら、絶対に狙ってる。年下男子めっちゃええやん!」 「俺、お前とタメなんだけど」 「あー。そっか。まだ言ってへんかったけど、俺ら学年は同じでも年は違うで。俺、ほんまは1つ上やから」 「……は?今、なんて?」  突然の暴露に戸惑い問いかけると、幸は同じことを繰り返した。 「俺、うさまるとタメちゃうで。1つ年上のお兄さんやで」  なんてことない風に言われた一言は、なんてことありすぎる一言だ。

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