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俺のストレス発散方法は、基本的にはゲームだ。相手をいつもより低めのレベルに設定して、こっちはノーダメージでボコボコにする。ちょっと情けないけど、気持ちをスッキリさせるにはこれが1番だ。
でも、今回のリカちゃんとした喧嘩はいつもと違う。どれだけゲームをしたって気分は晴れないし、本人にはキレた後だ。残るは誰かにグチることだけど、夏休みで家の手伝いに忙しい拓海はなかなか相手にしてくれない。
歩に言ってみるって手段もあるけれど、どうしようか。
「いや……だからって、なんで俺?いくら俺とうさまるが運命の親友やとしても恋愛相談は早すぎへん?」
向かい合わせに座っていた幸が苦笑する。
俺が呼び出したのは歩ではなく蜂屋幸だった。だって歩に相談なんてしても無駄だし、したくもないから。あんなやつに相談なんてしたら、バカにされてからかわれて、俺が悪く言われて終わるに決まってる。
「幸なら慣れてると思ったから」
「慣れてるって何に?」
「こういう……その、恋愛系の話とか。喧嘩も」
「ちょい待って。俺のイメージて、どんなやねん」
俺にとっての幸は女癖が悪くて普段はニコニコしてるけど怒ると口が悪くて、やっぱり軽い。だから気楽に相談できて、それなりのアドバイスを貰えそう……って思ったけど、もちろん内緒だ。
「まぁええわ。頼ってもらえたんは嬉しいから、理由は聞かんといたげる」
答えない俺に幸がにっこり笑う。俺は、幸のこういうところ好きだ。相手をよく見てるっていうか、気持ちを汲んでくれる感じ。これがリカちゃんなら心を読まれてるって思うのに、幸だとそれがない。
「ほんで、要点をまとめたらやなぁ。彼女ちゃんが他の男を紹介してもらってて、でもそれは押し付けられた感じで、でもでも気に入らんくて……ってことで大丈夫?」
「ああ、うん……9割は合ってる」
「9割?1割どこが違うん?」
「そこは気にしなくていい。小さなことだから」
まったく小さくないけれど嘘をついてごまかす。だって、本当のことなんて口が裂けても言えない。
実は彼女ちゃんじゃなくて彼氏くんで、しかも担任の先生で隣に住んでいるなんて、言えるわけがない。どこに驚いて、どこを重視すべきか当人の俺ですらわからないんだから、言われた幸が困るだろう。
「せやなぁ。もし俺がうさまるの立場やったらって考えると」
けれど幸は俺のごまかしに気づかず、目を伏せて考え込んでいた。真剣になってくれてる姿に罪悪感がチクチク痛むけど、知らないふりを貫く。
「うーん……そんなん今までなかったからなぁ。他の男を紹介してもらったなんて浮気みたいなもんやし、でも彼女ちゃんにも断られへんかった理由があるらしいし。そもそも、その断られへん理由て何なん?」
「それは多分、相手が教と……じゃなくて上司?の子供だから」
写真で見た女の人は教頭の娘だってリカちゃんが言ってた気がする。言われてみれば顔もすげぇ似てた……ような気もする。
だから、断ったけど教頭に無理やり押し付けられたってのは想像がつく。
それでも、納得したわけじゃない。
「仕事の都合とか?とにかく、そんな感じで押し付けられたんだと思う。リカちゃん外面はいいから」
「へぇ。彼女ちゃんの名前、リカなんや?」
「あっ、うん!リカリカ!!年上だから、ちゃん付けて呼んでるだけで、他に特別な理由はないから!リカなんて何人もいるしな!!」
「は?呼び方なんて別にどうでもええんやけど……」
不思議そうにする幸に、ヤバいと思って俺は口を噤んだ。余計なことを言ってリカちゃんの正体に勘づかれたら、どこで話が漏れるかはわからない。
幸がいい奴だとわかっていても、秘密を全て暴露していいわけじゃない。俺とリカちゃんの関係は、簡単に口にしちゃダメだって十分知ってる。
話を聞いてもらってるくせに肝心なことは言えなくて、嘘とごまかしで幸を騙している。幸の親切心を裏切っているように思えて、胸がツキン、と傷んだ。
「なんか……わざわざ呼び出してこんな話して、ごめん」
本当に謝りたいのはそこじゃない。けれど言わずにいられなかった「ごめん」を口にすると、幸は満面の笑みで首を振った。
「気にせんといて。だって俺ら友達やん」
何も返せない俺は、幸の笑顔から逃げるように俯いた。ごめんの代わりに今度は「ありがとう」と呟いて。
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