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「おっ……………まえ…マジでうざ……」  ドヤ顔で笑うリカちゃんは、俺がどれだけ嫌な顔をしても気にしない。こっちが引いてんのにニコニコしていて、呆れてんのにご機嫌で。もしかしたら何も聞こえてないんじゃないかと疑ったけど、名前を呼べば「なぁに?」と聞き返してくるから、その可能性もない。  ってか、その「なぁに」の甘ったるいこと。さっきまで言い合っていたのが嘘みたいに、グイグイ寄ってくるリカちゃんの顔を押し退ける。 「近いって。お前、ここがマンションの廊下だって忘れてないだろうな?」 「忘れてないよ。ついさっき家に連れ込むべきだったって反省したばかりだし」 「じゃあ少しは離れて。あと、連れ込むとか本人に言うな。それ全然反省してねぇから」 「大丈夫。慧君以外には言わないし慧君以外を連れ込むつもりもない」  どこが大丈夫なのかと問う前にまた塞がれた唇。さっきと同じようにいきなり入ってきたリカちゃんの舌は、けれどさっきと違って静かなまま、そっと添えられているだけ。唇も合わさっているだけで、キスなのにキスじゃない。 「はひ……ほれ」  なに、これ。喋りにくいままで聞くと、リカちゃんが軽く笑う。その振動に合わせてリカちゃんの感情が流れてくるみたいな感じがした。普段は俺よりもずっと我慢している分、すごく、すごく伝わってくる。  ああ、こいつ俺のことすっげぇ好きなんだなぁ……って、確信をもって言えるぐらい。  しっかりと見つめ合って唇も合わせて、そうして過ぎた時間は数秒か、それとも数分だったのか……わからないけれど、気づけば2人とも笑っていた。 「リカちゃんのくせにキス下手かよ」 「ふは……何してんだろうね。ここじゃ駄目だって頭では理解してるのに、離れたくないなと思って」 「だからってあの状態で止まるか普通。するならする、しないならしない」 「たまには良いね。性欲とか関係なく、ただ触れ合うだけも」  その綺麗な顔から性欲って言葉が出てくるとなぜかドキッとして、思わず俯いてしまった。そんな俺の様子をリカちゃんが見逃すわけがなく、ふふっと楽しげな笑い声が間近に落とされる。 「もちろん、慧君が許してくれるならこのまま連れ込むけど?その時は俺の性欲、ぜーんぶ慧君にぶつけちゃうかも」  それも悪くはない……こともない、こともないけれど。でも今はお互いにそういう場合じゃなくて、俺もリカちゃんも予定がある。さすがにヤリたくなったから全部キャンセルして、家に引きこもろうだなんて絶対にナシだ。 「うっさい。桃ちゃん達と飲みに行くんだろ。早く行け」 「リカちゃん部屋に連れて行ってって甘えてくる展開じゃない?」 「俺がそんなのするキャラだと思うか?」 「はぁ……残念ながら俺の慧君は根は真面目だからなぁ。そこも良いところなんだけど」  ぽん、ぽん、と軽く頭を2度撫でてリカちゃんが離れる。それを少し寂しいと思ってしまったのは、必死に堪えることで我慢した。ここで手を伸ばしたら、リカちゃんは俺を優先してしまう。 「そろそろ時間も気になってきたことだし、俺は行くけど」  右手につけている腕時計で時間を確認したリカちゃんは、視線を玄関の扉へと移す。けれど意識の向いている先は、その奥だろう。幸が入って行った俺の部屋の中だ。 「さっきの奴と2人で遊んでるなら、少し妬ける」  ほんの少しだけ早口にリカちゃんが続ける。 「慧君を責めたり、疑ってるわけじゃない。だからこれはただの嫉妬。ごめん」 「別に……。歩と拓海もいるし。コンビニに行ってるだけだから、もうすぐ帰ってくるし」 「それは何と言うか。補導されてないといいけどな。まあ、歩がいるなら大丈夫か」 「拓海だけなら大丈夫じゃないってことじゃん、それ」 「鳥飼はなぁ……どう見ても高校生だからなぁ……いいよ、どうせ近くのコンビニだろ?ついでに覗いてみる」  仕方ないなって、一瞬だけ先生の顔をしたリカちゃんが行こうとする。かと思ったら、すぐにまたこっちを振り返った。 「慧君。今日は俺、どっちに帰ったらいい?」  リカちゃんの指さした先は自分の家と俺の家だ。泊まる気満々だった幸の顔が頭に浮かんで、俺はそれを振り払ってから一方の扉を指さす。 「こっち。1時までは起きててやるけど、それより遅かったら鍵閉めるから。そしたら今度こそ仲直りとか絶対にしないから」  リカちゃんが嬉しそうに笑って頷いた。  

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