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第12話
リカちゃんは俺様で自分勝手で偉そうだとは思っていたけど、ドSでもあった。
参考書を前に固まる俺に全くの容赦はない。説明して一緒に解いて、最後は1人でやらせる。間違えてたら丁寧に説明してくれる…が、これは二回目までの話だ。
三回目ともなれば、その嫌味なほど整った端正な顔をこれでもかと歪ませ罵詈雑言を浴びせられる。
リカちゃんに仏の顔は二回しかない。
とは言うものの、さすが本職だけあって教えるのが上手い。担当の英語はもちろん生物や古典も要領を押さえた的確な教え方をしてくれる。
その中でも特に数学。
数学に至っては、どうしてこうなるのか、どうすれば間違えないのかを教科書以上にわかりやすく説明してくれる。
「なぁ。リカちゃんって数学得意なの?」
「あー…得意ってか好き。数学って面白いだろ」
「いや、面白くもねぇし俺は嫌いだけどな」
こんな数字ばっかで何を聞かれてんのかわかんないヤツの何が面白いんだ。これを解けたからって将来役に立つとは思えない。
足し算、引き算、掛け算、割り算。これができたら十分だと思う。
「わかってねぇなぁウサギは。数学ってみんなが一つの答えに向かって解いていくだろ?途中で諦めたり、間違ったりするヤツが出てくる。その中で答えに辿り着くって快感じゃね?お前らが解けねぇの解いてやったぞ…ってな」
そう言ってニヤリと笑った。どこの世界にそんな理由で数学が好きなヤツがいるんだ……。
「あの悔しそうな顔が堪んねぇんだよ。精々必死になってろバーカって思うのはすげぇ気分いい」
……ほらな。リカちゃんはドSだ。
「じゃあなんで英語の先生なんだよ」
もちろん俺は英語も好きじゃない。日本から出るつもりなんて無いから俺には必要ない。
「さぁな…………忘れた」
「は?忘れたってまだ数年しか経ってねぇだろ」
「忘れたモンは忘れたんだよ。それより手動かせよバカウサギ」
ペシンと頭を叩かれ、俺は全く解けそうにない問題に勝負を挑んで……完敗した。
「クソわかんねぇ。まず、わかる気がしねぇ」
「順番に解いてきゃいいんだよ。ここ計算したら、ここ。それで、次。そうしたら答えは絶対に出る。このページ終わったら飯にするから頑張れよ」
「俺腹減ってないからいらねぇ」
っつーかこんな文字ばっか見た後に何も食いたくない。それより今すぐ寝たい。もちろん一人でだ。
「お前それ以上痩せてどうすんだよ。とりあえず俺なんか食ってくるからその間に五問ぐらいは終わらせとけ」
そう言って部屋をリカちゃんは部屋を出て行った。
リカちゃんの足音が遠くなるのを確認し、即座に参考書を閉じる。机の端に置いたスマホを手に取りアプリを起動…………しようと思ったが、バレた時の事が怖くて、俺は渋々また参考書を開いた。
「マジで全然わかんねぇ…。なんで英語と数字と記号が出てくんだよ。そんな欲張ってどうすんだよ…」
リカちゃんが出て行って数十分。真面目に取り組んでみたものの解けたのは三問だけで、適当に思いついた数式を使ったから合ってるとは思えない。
どうやら俺には数学の才能が欠片も無いらしい。
「とりあえず数字書いときゃいいか「よくねぇだろ」……だよな」
遮る声が聞こえて、振り返ればリカちゃんが立っている。その手にはトレイを持ち心底呆れた顔をしていた。
「お前ねぇ…選択問題じゃないんだから当てずっぽうは無理があんだろ。とりあえず机の上片付けろ」
散らばってたシャーペンや消しゴムを直し、本を閉じればリカちゃんは空いたスペースに持ってきたトレイを置く。
例の青ラインのマグカップには温かいココア。その隣の皿には小さめのカップケーキ。
「慣れない勉強したから甘いモンでも食って休めよ」
「え、これ…お前が作ったの?」
「どう見ても手作りだろうが」
既製品とは思えないが男が作ったとも思えないクオリティ。それをこの性悪教師が作ったと思うと…正直言って複雑。
それでも、やはり味は一級品だ。
「うまっ…!!」
「当たり前だろ俺が作ったんだから。ココアも甘めにしてあるから飲めよ」
「っつーか何で俺が甘党なの知ってんの?」
俺はそんな話リカちゃんにした覚えないし買い物に行った時もお菓子買わなかった。
それなのに、どうして気付いたのかがわからない。
「お前、今朝すげぇ嬉しそうな顔でパンケーキ食べてたから。コーヒーに砂糖とミルク多めに入れてただろ?」
これはイケメンだから許されるセリフだと思う。もしリカちゃんが不細工なら「見過ぎなんだよ気持ち悪い!」ってなるんだよ。
「あと少し一緒に頑張ろうな、ウサギ」
にっこり、ふんわり笑うリカちゃんは綺麗ですげぇ優しそうで、こりゃモテんなー…って思った。
けれど俺は知ってる。
「テメェそこはさっき教えたばっかだろうが!!あぁ?その小さい頭ん中に何詰まってんだ?餅つきしてる場合じゃねぇだろバカウサギがよ!!」
………リカちゃんはブレない。コイツは間違いなく正真正銘のドSだ。
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