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第13話
人間の慣れってのは怖い。まだ二日目にして、俺はすでにリカちゃんと同じベッドで寝ることに抵抗が無くなっている。
だってコイツあたたかいし、やたらいい匂いすんだもん。これでリカちゃんがその名前の如く女の子だったなら文句は無いのに。
しかし残念ながら何度見ようと、男である事実は変わらない。
「ウサギ、いつも何時起きしてんの?」
「七時。八時過ぎに出れば余裕で間に合うから」
「それを余裕とは言わねぇけどな」
うちの高校は八時半始業だ。ここから二〇分もあれば着くから俺はいつも八時に流れる某情報番組の「行ってらっしゃい!」を聞いてから出る。
「いいな学生。って事は俺は7時半出か」
「どうせ車で五分ぐらいだろ」
「まぁな。車通勤って電車と比べて時間に融通利くし、こういう時すげぇ便利。そうだ、お前遅くなるなら連絡しろよ」
「それ昨日も言ってたけど。晩飯いらねぇ時は連絡すりゃいいんだろ?」
連絡先を交換した時に再三注意されたのに、また同じ事を言うか。リカちゃんってば若く見えて相当ボケてんのかもしれない。
俺がそう思いながらも返事をすれば当の本人は白けた目で俺を見る。
「バーカ。夜道は危ないんだから乗っけてやるつってんだよ」
「お前言う相手間違ってねぇ?それ男子高校生に言うセリフじゃねぇよ」
リカちゃんの目には俺が女に見えてるんだろうか?昨日から俺への扱いが男相手にする……というよりは女にするみたいだ。行動も言葉も、男子高校生へのモノとは思えない。
「本気でクソ可愛くねぇな……こういう時は礼でも言って甘えときゃいいんだよ」
そう言うとリカちゃんはその大きな手でワシャワシャと俺の頭を撫でた。
「うわっ!やめろってば!」
「ははっ。ウサギの髪はサラサラで気持ちいいよなー。ずっと触っててやりたいぐらい」
そんなのこっちから願い下げだ!そう言ってやりたいのに、本当に気持ちよさそうに俺の頭を撫でるから…なんだか言いづらい。
頭を撫でて、髪を指に絡ませ梳いていく。 目を細めうっとり見つめてくるリカちゃんに俺の方が緊張してしまいそうだった。
リカちゃんが俺の毛先を指に巻きつけて遊ぶ。同じベッドで向かい合って寝転びながら何してるんだろう。
まるで恋人同士のようだけれど俺とコイツはただの生徒と教師で同性で……もう何が何だかわからなくなる。
「いつまで触ってんだよ」
「んー?髪ぐらいでケチケチすんなよ。あ、今日もお休みのちゅーする?」
「はぁ?!」
サラッと意味不明な事を言った目の前の男を見た。その黒い瞳は本気なのか冗談なのか見分けがつかない。
「バカな事言ってんじゃねぇよ。そんな冗談言ってねぇで早く寝ろよ」
「それなら冗談かどうか試してみるか?」
真剣な目をしたリカちゃんに俺は内心ドキドキしてしまう。するとフッと笑ったリカちゃんが、弄っていた髪の毛をグイッと引いた。
「痛っ…てぇ…テメェ何しやがる……!」
髪を無理に引っ張られる痛みに耐え、俺はリカちゃんを睨みつける。二つの黒い瞳と目が合って…それが細まったかと思ったら低く甘い囁きが落とされた。
「………生意気なクソウサギには特別指導してやるよ」
言った途端に重なる唇。 昨日のデコチューとは違う…本物の……キス?!
「…クソ野郎!マジ殺す!!!」
「お前ねぇ……キスした後にそんな事言われたの初めてなんだけど。たかが触れただけで怒鳴ってんじゃねぇよ。クソガキ」
「たかがじゃねぇよ!!」
「その反応はもしかして初めて?慧君の初めていただいちゃった」
こいつマジ殴ってやりたい。勝手にキスしといて悪びれもなく言いのけた後、もうこの話はお終いだとばかりにリカちゃんは俺に背を向ける。
このイライラした気持ちをどこにぶつけるでもなく悶々としたまま目を瞑った。
絶対に眠れるわけねぇ!そう思っていたはずなのに、この日も俺はあっさりと眠ってしまったのだった。
それもこれも、リカちゃんが無駄にいい匂いなのが悪い!!
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