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第14話

「起きろバカウサギ!」  月曜日の朝。今日からまた学校が始まると思うと憂鬱で、もう少し夢の世界にいたいところ。それなのに容赦なく俺を叩き起こす存在。  いわずもがな俺の担任の先生だ。 「お前、その寝起きの悪さどうにかなんねぇの?」  呆れたように言うリカちゃんは既にスーツに着替えている。 俺を起こす前に家に戻って身支度をしたんだろう。  一体何時に起きたのか考えるのも面倒くさい。 「とにかく俺はもう行くから遅刻すんなよ」  慌ただしく出て行くリカちゃんをパンを齧りながら見送る。  っつーかこの二日間アイツほとんど俺ん家いてんだけど…せっかくの分譲マンション勿体無くね?布団代ケチるくせにコップやら皿やら参考書やらはホイホイ買う金銭感覚がわかんねぇ。  考えてもわからない事は考えない主義の俺は、そこで思考をストップした。起こしてもらった上に遅刻したら何を言われるのかわかんねぇし……嫌々ながらも食事を進める。  リカちゃんが朝から用意してくれた飯を腹の中に詰め込み、ダラダラと用意して家を出た。  さっきまで一緒に寝てたヤツと学校でまた会うなんて変な感じがして少し気恥ずかしい気持ちになった。 * 「慧が早く来てる!!しかも寝てもねぇ!」 「……ヤバいな。傘持って来てねぇ」  誰かさんに起こしてもらったおかげで遅刻する事もなく優雅に歩いて登校出来た。  自分のクラスの自分の席に座ってんのに、珍獣でも見るかのように向けられる視線に辟易していたらこれだ。  教室に入り俺を見つけるなり大声で叫ぶ拓海に、かなり失礼なことを平坦な口調で言う歩。 まぁ……二人の気持ちもわからんではない。  俺がまともに登校するのも少なけりゃ、こうやっておとなしく座ってるのなんてほぼ無い。出席日数確保の為に来たとしても、寝てるかスマホ弄ってるかのどちらかだ。   ……だからって一月になってまで担任の顔がわからなかったのは自分でもやり過ぎたと反省はしてる。っと、そういうのはさて置き、だ。 「なぁ。今日って英語何時間目?」   昨日、口うるさく言われたから予習はバッチリだ。なんせ担当教師が付きっ切りで教え込んだんだから間違いはない。 「起きてるだけじゃなくて授業も受ける気か?!」 「拓海、本気で殴るぞ」 「うそうそ。英語は三時間目。ちなみに一、二時間目はマラソン大会の練習!」 「マラソン大会…マジか」  仕方ないから英語は出る。が、しかしマラソン大会の練習とやらは絶対に出ない。  とりあえずHR終わったら適当に空き教室探してサボるか……。今日はどこでサボるか頭の中で候補を上げていく俺に、拓海は最悪の情報をくれる。 「ちなみに練習の担当はリカちゃん先生だっちゃ」 「……………………」  拓海の語尾にツッコミを入れるのも忘れ、俺はただただ来るんじゃ無かったと猛烈に後悔した。  チャイムが鳴り、しばらくすると教室の扉が開く。 現れたリカちゃんは今朝と同じスーツ姿…は当たり前なんだけど髪型が違う。  見慣れたフワフワ無造作ヘアじゃなく、軽く流した感じのオシャレぶった髪型。そういや前に教室で見た時もこんな感じだったか。  人の事をからかって遊ぶ意地悪なリカちゃんじゃなく、出来る男風のリカちゃんに…なぜだかイラッときた。 「はい、おはよー……って珍しく起きてるヤツいる」  リカちゃんが俺を見てニヤッと笑う。その顔はこの土日で何度も見た意地悪リカちゃんだ。 「一月も半ばになってやっと改心した?」 「…………うぜぇ」   なんだか変な感じがした。  まだ二日間とはいえ一緒に飯食って一緒に寝てるヤツと同じ教室にいる。 しかも今は担任の先生と生徒で、俺たちが隣に住んでて一緒に過ごしてることを知ってるヤツはいない。   俺だけが知ってるリカちゃんがいて、リカちゃんだけが知ってる俺がいる…ってこの言い方キモいわ。 「じゃあ今日の日直は改心した兎丸って事で。三時間目始まる前に俺のとこ来るように」 「はぁ?!なんでだよ!!」 「日頃の行いの悪さ故だな。でもって一時間目はマラソン大会の練習で二時間目は説明会だから着替えてグラウンドなー」  俺の抗議虚しくリカちゃんは言うだけ言って教室を出て行ってしまった。  そうだ、いくら見た目をちゃんとしてても中身はあの性悪ドS野郎だって忘れちゃダメだったんだ。 「慧ドンマイ。真面目になった途端ツイてねぇな!」 「あいつマジでうぜぇ…練習も英語もサボってやる」 「やめといた方が良くね?リカちゃん怒らせるとマジやべぇって噂だし」 「知るかよそんな噂」   俺には関係ない!日直とかいうアホな話も、あのバカ教師が勝手に言った事だ。そうと決まれば善は急げと俺は拓海の制止を振り切って教室を出た。  目指すは屋上!!もう誰も今の俺を止めることはできない。  ……はずだったのに。 「へぇ。やっぱバカは高い所が好きって本当なんだ」 「なっ…なんで、お前が…!!」   階段を登った先。屋上の扉の前に立っ微笑むのは何様俺様リカ様だった。

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