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第20話
「あ、そうだ。悪いけど今日は晩飯作れねぇから自分でなんとかしろよ。遅くなると思うから勝手に寝てて」
「え…なんで?新年会?」
突然のことに、俺はついつい聞き返してしまう。普段なら理由なんて聞かないのに咄嗟に聞いてしまった。そんな俺にリカちゃんが答える。
「違ぇよ。今日ウチに人来るんだよ…さっきいきなり連絡きて面倒くさいことこの上ない」
人って友達だろうか?それとも…彼女?
リカちゃんなら女なんて黙ってても向こうから寄ってくるだろうし、きっとモテるはずだ。
っていうか、なんで俺はリカちゃんに相手がいるかもって考えなかったんだろう。
一緒に飯を食ってるから。一緒に寝てるから。それだけの理由でいないって決めつけてた。
「あー……話してたら電話来たし。返事ぐらいおとなしく待てねぇのかよ」
ハァ…とため息を付きリカちゃんは迷わず電話に出た。
「はい。うっせぇな仕事中だったんだよ。あぁ…まぁ見たけど…お前いきなり過ぎんだろ」
俺はここにいていいのか?そう思うけど、聞かれてマズい電話ならリカちゃんは出ないか俺を教室に戻らせるはずだ。だから俺は黙って渡されたジュースをちびちび飲む。
「あ?そんな遅くなんなら別に今日じゃなくていいだろ。…知るかよ。俺は明日も仕事だっつーの」
その口調から相手にリカちゃんが電話の相手に気を許してる事がわかる。
一体誰なんだろう。どんな関係なんだろう。
疑問に思った答えは、次のリカちゃんの言葉で返ってきた。
「あーわかった、わかったから電話口で騒ぐなってば。マジうっざ。桃が来る時間に合わせて駅まで迎えに行ってやるから。じゃあな」
桃さん? 桃ちゃん? ……そんなのどっちでも一緒だ。
駅まで迎えに行くほどの相手。それは、きっとリカちゃんの『特別な人』
「マジあいつ面倒くさいわ。っつー事で今夜は寂しい思いさせるけど悪いな」
リカちゃんが平然と言う。 その理由は、俺がただの隣人で、ただの生徒だからだろう。その当たり前のような言い方に、心の中にモヤモヤが蘇ってくる。
「その分、明日嫌ほど可愛がってやるよ」
イライラする。ムカムカする。
顔も声も何もわからない『桃』に嫉妬してしまう。
「ウサギ?」
「…………ッ! 気安く触んなっ」
伸びてきたリカちゃんの手を払いのけ、俺は部屋を飛び出した。
もちろんその後の英語の授業は出なかった。昼休みも、5時間目も6時間目もサボって、俺はリカちゃんから逃げ続けた。
「なぁ慧ー…俺を慰めて」
「なんで」
帰りのHRが終わったのを見計らって教室に戻れば拓海が半泣きで座りこんでいた。バイトの鬼の歩はすでに帰った後で、教室にいる生徒はまばらだ。
いつもは歩と一緒に帰る拓海がまだいるってことは、きっと俺を待っていたんだろう。
「なんかさぁ、リカちゃん先生にめっちゃ怒られたんだけど。俺が予習してないのなんて、いつもの事なのにさぁ。次もして来なかったら裸で吊るし上げるとか言われたんだよ…鬼だよ、鬼」
いや、さすがにそこまでは……言いそうだけど。
リカちゃんなら笑って言いそうだけど、今はそれすら考えるのが苦痛で、俺は早く話を終わらせようとする。
「まぁ、ドンマイ」
「ってかリカちゃん先生、慧のこと探してたっぽいけど。帰り際に兎丸は?て聞かれたからごまかしといたー」
「ナイス拓海」
きっと完全に切ってたスマホの電源をつけたら、着信とLINEが来てんだろうけど…なんか今日はもう何も話したくない。
今リカちゃんに会ったら「桃って誰?」とか聞いちゃうに違いないからだ。
「ナイスな判断をした拓海に飯を奢ってやろう」
パアァァッと一瞬にして笑顔になった拓海を連れて学校を出る。その途中で鷹野とすれ違った。無視しようとしたのに、向こうから話しかけてくる。
「兎丸君って本当に生意気だよね」
「は?」
「大人しくしててくれれば可愛いのに…」
また嫌味を言われるけれど、今の俺は鷹野に構ってられるほど余裕がない。立ち止まることなく、俺は鷹野に答えた。
「テメェに可愛いと思われる方が嫌だ」
「そんな事言えるのは今だけだからね」
「どういう意味だよ。マジでうぜぇなお前」
コイツもリカちゃんのことを好きなら俺に構ってる暇なんて無いのに。
当の本人は今夜は本命と会うんだから、戦うべきはその本命だ。
「チッ……本命がいるとか聞いてねぇし」
自分で考えといてイライラするなんて、やってられない。
無意識に出てしまった舌打ちと呟きに拓海がこちらを向いた。
「慧、お前いつの間に鷹野と仲良くなったんだ?」
「あれが仲良く見えるんなら眼科行けよ」
首を傾げ不思議そうな拓海を放って俺は外へ出て行く。
「飯奢ってくれるって言ったくせに置いてくなよー!」
追いかけてくる拓海の後ろ、責めるような鷹野の視線がいやに気持ち悪かった。
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