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第21話
拓海と適当に遊んで適当な所で飯を食って帰る。
時計を見ると、もうすぐ9時…リカちゃんは今頃は『桃』と会ってるんだろうか。
遅くなる的な話をしてたけど今日はどこで寝るんだ?
布団の無い部屋で『桃』と?それともどこか泊まる?
ってか何で『桃』の部屋に行かないんだ?
気がつけばそんな事ばかり考えてしまって、拓海と何を話したのかも思い出せない。
重い足取りのままエレベーターに乗り、壁にもたれた。俺がこんなに悩んでるっていうのに今頃リカちゃんは『桃』とイチャイチャしてると思うと……
「あぁ!イライラする!!!」
こうなりゃ意地悪でチャイム鳴らすか?んでもって『桃』とやらの顔でも拝んでやるか?
きっとリカちゃんの事だから美人に違い無いけど。
それはそれで負けた気になるから、やっぱりやめようと思い直す。
重たい足取りだったのを今度はドカドカ荒く歩く。
俺の家の扉の手前……リカちゃんの家の扉の前。キョロキョロと周りを見渡す挙動不審な男と目があった。
「………やぁんっ!!!生高校生可愛いーっ!!」
「は?オカマ?」
「やぁね。今時はおネェって言うのよ」
明るい声で答えたそいつは中身も挙動不審だった。
俺より少しだけ高い身長に、淡いグレーのコート。その下に着ているのはスーツだろう。
薄茶色の髪は自前なんだろうか?
軽く整えてあって……まぁイケメン、だけど。
「んもうっ! リカったらお隣が高校生なんてイヤらしいったらありゃしない!」
中身が残念すぎる。会って数分の俺でもわかるぐらいに個性的な男だった。
「リカちゃんなら今日は予定あるって言ってましたけど」
「あら?おかしいわねぇ。約束してたんだけど…」
顎に指を当て、首を傾げる姿もバッチリおネェだ。
リカちゃんと約束してたらしいオネェ……面倒くさい、うるさいと怒っていたリカちゃん。
俺の中で、ある仮定が生まれる。
もしかして。もしかすると。
「桃、さん?」
「はぁい。あたしの名前、知っててくれたのね!リカの高校からの親友の桃でーす」
………………俺の一日を返せ。目の前のオカマ……じゃなくて、おネェに心から思った。
「桃ちゃんって呼んでね?」
バチッとウインクをかましたおネェの桃ちゃん。一日悩んでいた原因がリカちゃんの彼女じゃなかったと知って力が抜ける。
「……リカちゃんはどこですか?」
「今は車置きに行ってるからすぐ来るわよ?えーっと……君は…」
「兎丸です」
「トマル…?」
名前を答えると、桃ちゃんからさっきまでのヘラヘラ笑顔が無くなり、スッと目つきが鋭くなる。急に変わった雰囲気に俺は後ずさった。
「え、なに?」
尋ねると桃ちゃんは真面目な顔して聞き返してくる。
「トマルって…兎に丸?もしかしてお兄さんいる?」
「いますけど…。今年24になる兄が」
フルフルと桃ちゃんが首を振った。鋭かった目つきが何か言いたげで、眉を寄せた表情が辛そうに見えた。
「じゃなくて。私と同い年の26歳」
26歳の兄ちゃん。それは、今はもういない俺が家族と呼べる唯一の人。
「…………生きてたらいましたね。8年前に死んじゃったけど」
兎丸 星一。
優しくて勉強が出来て、母さんが出て行った後、俺の面倒を見てくれた。
みんなに好かれる自慢の兄ちゃんだった。
「桃ちゃんは星兄ちゃんの知り合い?」
「私は…「桃!!」」
答えを聞く前に駆けつけてきたリカちゃんによって、桃ちゃんの言葉はかき消された。
「リカ……」
「ったく、お前鍵も無いくせに先に行くってバカか」
エレベーターから降りてきたリカちゃんの視線が桃ちゃんから俺へ移る。
「ウサギ?今帰ってきたのか?」
「あぁ、うん」
「お前帰んの遅すぎ。飯は?ちゃんと食った?」
「食ったよ。お前は俺の母親か」
帰宅時間に夕飯の心配までしてくるリカちゃんに、俺は昼間の事なんかすっかり忘れてしまっていた。リカちゃんも気にしていないのか何も言わずにチラッと桃ちゃんを見る。
そして気まずそうに視線をそらした。
「リカ。ちゃんと説明してちょうだい」
「わかってるよ……だから嫌だったんだ」
「嫌って思うのはやましい事があるからなの?あんたまさかっ……!!」
ハッと目を見開いた桃ちゃんは俺とリカちゃんを交互に見比べる。
「え、何?」
俺1人だけ何もわからずにいるって嫌だ。
俺だって説明してほしい。
桃ちゃんと星兄ちゃんは知り合い…って事はリカちゃんと星兄ちゃんも知り合いなのか。
けれど、そんなのリカちゃん一言も言ってくれなかったのどうしてなのか。
頭の中が疑問で溢れかえりそうだ。
「とにかく中入れよ」
俺と桃ちゃんの間を抜けて玄関の鍵を開けたリカちゃんは、促すように桃ちゃんを部屋の中へ入れる。
渋々と玄関に桃ちゃんが消えた後、リカちゃんが俺を見た。
「あの、俺っ!」
「ちゃんと説明するから。今日は遅いからお前も家に入れ」
リカちゃんはそう言うけど…。でも……聞きたい。
リカちゃんと星兄ちゃんの関係。どうして教えてくれなかったのかを。
俺はリカちゃんからちゃんと聞きたい。
「ウサギ。良い子だから、な?」
リカちゃんが困ったように笑う。
「……………………約束しろよ」
下から睨みつけながら言えば、少し屈んだリカちゃんが俺のおでこにキスをした。
「約束する」
「ベッド…………片側空けててやるから」
一瞬何を言われたのかわからなかったらしいリカちゃんが、理解した途端にクスクス笑い出す。
「それは反則だろ、慧君」
今度はちゃんと唇同士が重なり合う。
俺は、ここがマンションの廊下だって事も忘れて目を閉じそれを受け入れた。
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