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第22話

(side リカ) 「ねぇ。あんた何考えてんの?」 ウサギが部屋に入ったのを見届けた後、俺も自分の部屋に入れば廊下で仁王立ちしてた桃に睨みつけられた。 それに気付かないふりをして隣を通り過ぎる。 「…こんなとこ突っ立ってないでソファに座りたいって考えてるけど?」 「違うわよ!!!なんであの子の隣に住んでんのよ!」 「それはたまたまだって」 そう。 これは本当に偶然だった。 まさかウサギが1人で暮らしてるとは思ってなかった。 「これからどうすんのよ」 「どうって…どうもしねぇ」 桃は納得いかない、とばかりにまだ俺を睨んでいる。 それに笑って返す。 「だいたい俺はアイツの担任の先生なんだよ。接点持つなってのも無理な話だろ」 「でも弟君は知らなかったわ。私たちと星一が知り合いだなんて微塵も知らない感じだった」 「だろうな。俺も言わなかったし」 言わなかったんじゃない。本当は言うつもりなんてなかった。 ウサギの…星一の家庭環境が複雑なのは知っていたけれど、まさか母親が蒸発していたとは思わなかった。 ただ、やたら弟を構う兄貴だなって思っていたんだ。 親とソリが合わないなんてよくある話だし変だとも思わなかった。 それほど星一は何を考えているかわからない男だったから。 リビングまでやって来て、桃が部屋の中を歩き回る。落ち着かないように右へ左へ…その足は止まらない。 「まいったわ。あの子にバレちゃった」 「別に隠すほどの事じゃないだろ」 「でも!」 兎丸星一…ウサギの兄と俺は高校の同級生だ。 親友だなんてクサい言葉だけど、まさしくそれだったと思う。 よく出来る真面目な星一と俺はアンバランスだったけれど、話が合って気づけばいつも一緒にいた。 そう、あの事故の時も俺は星一の傍に居た。 「俺は星一の代わりにアイツを守るって決めてるから近くにいてくれる方が助かる」 「リカ…」 桃が切ない顔で見上げてくるのを見ないで言い切る。 それは桃に対してじゃなく自分に対してだ。 「その為に俺はいるんだから」 あの雨の日、最後に聞いた親友の言葉は「後は頼む」だった。 「星一の出来なかった事をするのが俺の役目だ」 あの事故で死ぬべきは自分だったんだ。 俺の背中を押した星一の手の温もりは今でも忘れられない。 違う。 忘れちゃいけない。 「リカはリカよ。星一とは別の人間だわ」  桃の真っすぐな視線が痛くてタバコを吸うのを言い訳にベランダへと出る。 「……それはどうかな」 律儀に片側を空けて寝転ぶ君を思う。 どうか笑ってほしい。 「あいつが幸せになるのが俺の願いだ。それ以外は何もいらない」 大切な人を奪った俺に罰を与えるのはすぐ近くにいる彼だけだろう。

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