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第25話

サボったり、たまに気が向いたら教室にいたりして1日が終わる。 拓海と歩とくだらない話をしながらも考えるのは、この後のリカちゃんとの時間のことだ。 リカちゃんは俺に何を話してくれるんだろう。星兄ちゃんとリカちゃんの関係と、俺のことをどう思ってるか…とか? そんなことを考えてたどり着く答えは「いや、無いな」だった。 「なぁ慧。今日は歩もバイト休みだから遊んでくだろ?」 帰り支度をし終えた拓海が俺に話しかけてくる。 2人と遊びに行きたい気持ちもあるが、リカちゃんは定時で帰れるようにするって言ってたから今日は早く帰りたい。 リカちゃんの定時が何時かは知らないけれど、先に帰って待ってるつもりだった。 「俺パス。今日は用事あるから」 「は?せっかく3人集まるのに?」 「用事あるつってるだろ」 ぶつくさ言う拓海に答えると余計に頬を膨らませて怒り出した。 拓海はよく拗ねる。そして、こういう時はいつも歩が間に入ってくれるんだ。 「拓海。慧だって都合あるんだから諦めろ」 「歩までンな事言うのかよー…」 「俺が付き合ってやるから。っつーか慧、LINE来てるぞ」 歩に言われてアプリを開けば、新着メッセージが1件きていた。 『15分後に駐車場。車の陰に隠れてろ』 もちろん差出人はリカちゃんだ。待ってるつもりが、一緒に帰れるとわかって俺の機嫌はすぐに良くなる。単純だってわかっていながらも嬉しいんだから仕方ない。 「悪ぃけど行くわ。また明日な!!」 言い捨てるように2人に別れを告げ、机の上に置いた鞄を乱暴に掴んで教室を飛び出した。 「慧?!なんだよあんな急いで何の用事なんだ?」 「早く行かねぇと食われるからじゃねぇの」 「誰に?何を?」 「……さぁな」 2人の噛み合わない会話は俺には聞こえなかった。 *  駐車場に停めてある数台の車。その中でも1番綺麗な黒い車の後ろでしゃがんで待つ。 まだかまだか…と数分ほど待っていると、向こうの方から歩いてる人が見えた。 フワフワと揺れる黒髪に長身の人影はリカちゃんだ。咥え煙草がやたらと似合って、スーツの上に着たコートも、首元に巻くマフラーも全部カッコいい。 くぁっと欠伸をしたリカちゃんが、ポリポリと鼻をかいた。 寝不足でちょっと油断してるリカちゃんが可愛い。 男を可愛いだなんて思うのは変だろう。もうここまでいけば溺愛ってやつかもしれない。 けれど、そんなリカちゃんの後ろには……鷹野がいた。 「お前さ、どこまでついてくる気?」 ちょっと鬱陶しそうだけど、一応まだ先生モードの声でリカちゃんが鷹野に話しかける。すると鷹野は嬉しそうにリカちゃんを見上げて答えた。 「先生の車、興味あるんですよ」 「普通の国産車。色は黒。はい、答えたから帰って」 「嫌だなぁ…乗せてくれって意味なんですけど」 俺に嫌味を言う時とは全然違う鷹野の声。甘えるような、猫撫で声がウザくて腹立つ。 リカちゃんが鷹野乗せたらどうしよう…後部座席でも嫌かも…不安で飛び出したくなるのを耐えていると、リカちゃんが口を開く。 「無理」 考える隙もなくリカちゃんがキッパリ断った。それに、無意識にガッツポーズをしてしまい、誰にも見られていないのに俺は少し照れて、さらに奥へと隠れる。 「えぇー……なんでですか?」 けれど鷹野は諦めずに粘った。 「鷹野乗せると嫌がるヤツがいるから」 サラッと爆弾発言をしたリカちゃんに俺は呼吸をするのも忘れて固まってしまう。 それは鷹野も同じらしく、リカちゃんの腕を掴もうとしていた鷹野の手が宙で止まっていた。  リカちゃんは余裕たっぷりに鷹野に言い放つ。 「ウチの子ヤキモチ妬きだから悪いね」 「へぇ…… その人の事すごく大事にしてるんですね」 「まぁね。すげぇ可愛くて急いで帰りたいぐらいには」 「なんか妬けるなぁ……」 もうやめてほしくて俺は両手で耳を覆った。けれど2人の声はまだ聞こえてくる。 恥ずかしすぎて、嬉しすぎて、きっと真っ赤な耳がもっと赤く熱くなっているだろう。 「獅子原先生って意外と一途なんですね」 「意外って失礼だな。ほら、ちゃんと答えたんだからもういいだろ」 リカちゃんのウザったそうな声がさっきよりハッキリと聞こえた。 チラッと上半身を陰から出して覗いてみると、運転席のドアにもたれたリカちゃんの横顔が見えた。 その唇は緩く上がっている。 「まぁ…今日は諦めますよ」 諦めた鷹野が後ずさる。背中を向けたそいつに、リカちゃん『先生』が声をかけた。 「気をつけて帰れよ。あと生徒送るとかダメだから、そこんとこ納得してくれ」 去って行く鷹野の姿が見えなくなり俺はホッと息を吐くけれど、しばらくして足音が近づいてきて…何かが肩に乗る。 肩越しに見えたのは白くて薄い、大きな手。 「ウサギさん、みーつけた」 背後でリカちゃんモードの意地悪な彼が笑っていた。

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