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第17話

「それなのに何でこんな気分にならなきゃなんねぇんだの」 「何が?」 「こんなんじゃ俺がリカちゃんを………って、はぁ?!」 「ウサギ…お前手抜きし過ぎだろ。なんで先に出たお前が後半組より後ろ走ってんだよ」  いつの間にか俺に並走していたリカちゃんは、みんなの前で見せる先生モードじゃなく見慣れたリカちゃんだ。 「な、なんでテメェがここに?!」 「だからそれ俺のセリフな。念のために最後尾を俺が走るってさっき説明しただろうがよ」  俺としたことが鷹野に絡まれた事に気を取られ聞いてなかった。 「何ちんたら走ってんの。ウサギなんだからトップ目指せよ」 「人の名前で遊ぶな。……っつーかウサギって呼んでいいのかよ?」  さっきまで兎丸って呼んでたくせに、2人になるとウサギと呼ぶ。狙ってしてんのか……いや、確実にそうだろう。 「こんな後ろの方走ってんの俺とお前ぐらいだ……ったく、しょうがねぇヤツだな」  『しょうがない』  その言葉にさっき鷹野に言われた事を思い出した。  リカちゃんが俺に構うのは、俺がしょうがないヤツだから?迷惑かけてるって……そうなんだろうか。  担任だから。見捨てれないから仕方なく俺に構ってる?これが俺じゃなくてもリカちゃんは同じようにするんだろうか?同じように意地悪してからかって。お仕置きだって言ってキスなんかして。  リカちゃんが俺以外と……。そう思うと胸が締め付けられるようで苦しくなる。心の中のモヤモヤが濃く深くなった気がした。 「お前…なんかあった?」  リカちゃんが走っていたのをやめ、俺の手を掴む。 「……別に、なんもねぇし……」  真っ直ぐにリカちゃんを見ることが出来ない。こんな気持ち知られたくない。  それなのにリカちゃんは見逃してくれない。 「ちょっとこっち来い」  そう言ってリカちゃんは河川敷を降りていく。橋の下…誰もいない影に連れてこられ、俺をジッと見つめる。 「何があった?」 「だから何もねぇって言ってんだろ」 「なら何でこっち見ないんだよ」  見ないんじゃなくて見れない。見たらバレてしまう。その黒い瞳はきっと気づいてしまう。  俺が、悶々と抱いてる嫉妬心に。  たった二日でリカちゃんを好きになっていることに。そんなの知られたくない。  知られたら最後。からかわれてバカにされて俺が傷つくだけだ。 「見ないなら俺しか見えなくしてやろうか?」  そう言うな否や、バンッと壁に押さえつけられる。グッと顎を持ち上げられ、息がかかるほどに詰め寄る。  鼻の先にはリカちゃんの整った顔。ちょっと冷たい雰囲気で、それでいてそれぞれのパーツは計算されたかのように繊細で綺麗だ。 「そんな目で俺を見るなよ」 「何、言って……、」 「俺を煽るなんてウサギのくせに生意気」  かぶりつくように強く唇を押し付けられる。性急に入ってきた舌は、ほんの1時間前に感じた衝動を湧き起こすには充分だった。 「ふっ…んぁっ」 「舌出して」  リカちゃんの声には毒でもあるんだろうか。声を聞くだけで、匂いが香るだけで…身体の奥が疼く。 「そう……上手だ」  言われた通りに舌を吐きだせばチゥッと強く吸われる。他人の…しかも男の唾液なんて気色悪いのにリカちゃんのものなら平気だ。 「溢さず飲めよ」  送り込まれる1滴1滴がとても甘美に思えて、もっと欲しくなる。無意識に突き出した舌の上に乗せられた蜜を少しも零すことなく飲み干す。 「……えっろ」  囁かれる声も、強く抱きしめる力も。縋り付いた先の暖かさも。  全て俺だけのものであってほしい。 「いいね、その顔」  あぁ……ヤバいな。俺、この人に惚れてる。  意地悪で俺様で性格悪いのに好きで好きで仕方ない。 「ゃ、ふっ…ぅ」  もっと触れてほしい。この人の全てが欲しい。 「もっと可愛く強請って……ウサギちゃん」  リカちゃん先生の全部が欲しい。

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