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第18話

「ン……ぁ、リカちゃ」 「何?」 「……もっと」  一瞬、リカちゃんの目が驚いたように大きくなる。けれどすぐに意地悪く細まっていく。 「そんなに俺にされんの気持ちいい?」  もっとって言ったのに、あっさりとキスをやめてしまったリカちゃんが恨めしくて睨む。 「ハッ……赤い顔して涙目で睨むとか無意識怖ぇな」  楽しそうなその顔は獲物を捕らえた肉食獣のようだ。 「そんな悪いウサギにはお仕置き、だな」  耳元で囁く声に、もうどうしようもなく疼いて無意識にリカちゃんの背中に回してた手の力を強めてしまう。 「もっと欲しい?」  甘く掠れた声は…見えない鎖で俺を絡みとる。それを解く事は俺には出来ない。 「素直な子には……特別なご褒美やるよ」 「………もっと……、して」  かろうじて出た小さな声は、届くのだろうか。その答えは目の前の男がくれるに違いない。 「やっばぁ…。どうしよう、すげぇクる」    押さえつけられていた手は離されたのに動けないのはなんでだろう。これから起きることを期待してるから? 「発情してんじゃねぇよ。エロウサギ」 「なっ!………………っあぁッ!!」  カプッと耳を噛まれる。痛い……には少し足りない刺激。そんなんじゃない。もっと欲しい。それが伝わったのか、リカちゃんは噛んだままの耳をキツく吸う。 「あッ……ん、」  ツツーッと舌先で輪郭をなぞられ、クチュリと水音に鼓膜が揺れた。 「やめっ……」 「耳、弱いんだ?」  そんなとこで喋らないでほしい。吐息が耳にかかってくすぐったい。 「そんなんじゃこの先もたないんじゃねぇの?」  さっきまで俺を攻めてた舌が耳元を通って首筋へ向かう。ドキドキと高鳴る胸の音がリカちゃんにまで届いてるんじゃないかな……このままじゃ胸が破裂してしまいそうだ。 「リカちゃん」 「ん?」 「そんなんじゃ足りない」 「……バーカ」  鎖骨に触れるか触れないかの所で笑うからゾクッと震えてしまう。それをからかわれるかと思ったのに、やけに真剣なリカちゃんがそこにはいた。  フッと息を吹きかけたリカちゃんが俺を見上げる。 「ウサギさ、あんま無防備にしてんなよ。俺以外のヤツに懐くとか絶対に許さねぇから」 「何言って…、」 「ご主人様を間違えんな」  そう言った途端に走る痛み。リカちゃんが俺の鎖骨に噛み付いた痛みだ。 「痛ッ…ぁ」  ツンとした痛みの後に強く吸われる。重なる刺激に無意識にリカちゃんの肩に爪を立ててしまう。 「そのまま掴んでていいから」  リカちゃんの頭がもっと下がっていく。  次は何をされるんだろうか。どこに触れられるんだろうか。心の中で期待が膨らんで、もう止められない。  リカちゃんと目があって、そのまま見つめ合い……フッとリカちゃんが笑ったと同時だった。  ピピピピピ…………その音にリカちゃんの動きがピタリと止まる。 「…………チッ」  のっそりと身体を起こし、ポケットに入れていたスマホを取り出した。 「はい……はい、一緒です。なんだか体調が悪かったみたいで……大丈夫です。このまま付き添って帰るんでそちらをお願いします」  ピッと電話を切ってこちらを向く。薄く笑った唇は少し濡れていて、その理由を知っている俺は思わず顔が熱くなった。 「続きしてほしい?」 「い、いらない!」 「ふぅん。……ま、お楽しみは夜にって事で。戻るぞ」  さっきまでのピンクな雰囲気は無くなり、教師の顔に戻ったリカちゃんが歩き出す。2、3歩進んだと思えばこちらを振り返り、ニヤッと笑った。 「制服。今日はボタン留めとけよ」  トントン、と自分の首元を指差したリカちゃんを見て、俺は瞬時に言いたいことを理解した。  学校に戻って見た鏡の中。いつもと同じ髪型にいつもと同じ顔。いつもと違うのは、ただ1つ。チラリと覗く鎖骨に、ハッキリとした歯型と真っ赤なキスマークが 散っていた。

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