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第40話
「欲しいの何でも買ってやるから遠慮なく言えよ」
「んじゃ車」
「免許もねぇのにアホか。それはまた今度な」
免許があれば買う気なのだろうか。俺にはリカちゃんの考えてることが全くわからない。
リカちゃんはどんな安いものだって絶対に俺に払わせないし、買い物の時に値段を気にした素振りなど今まで一度も見せなかった。
俺はリカちゃんの事をあんまり知らない。知っているのはエロいリカちゃんばかりだ。
後で聞いてみよう。隣を歩く横顔を見ながらそう思った。
買い物の前に軽く昼食を摂ることにした俺たちは、手近にあったファーストフード店へ入った。正直に言ってリカちゃんとファーストフードって…似合わない
「こんなの食べるのって大学以来だ」
チーズバーガーを齧り、そう言ったリカちゃんは少し子供っぽく見えて思わず笑ってしまう。物珍しそうにトレイの上を眺め、開封した袋に手を伸ばす。
「しかも今のポテトって味選べんだな…って何笑ってんだよ」
「別に。あの獅子原先生がまさかハンバーガーに興奮するとはなって思っただけ」
「あのって何だよ。俺は普通の英語の先生だっての」
ポテトを咥えムスッと脹れるリカちゃんが可愛い。
いつもの仕返しをしようと口を開いた時だった。
「あのー…ご一緒いいですか?」
ふと声のした方を見ると二人組の女の人たち。綺麗に着飾って、上目遣いでこちらを見る。自分たちの方が立ってて上にいるくせに、可愛く見せようという魂胆が見え見えだ。
答えない俺たちに向かって、二人組は畳みかけるように話し出す。
「すっごく仲良いですね!ご兄弟ですか?」
「あたし達も姉妹なんです。よかったら一緒に…」
そのセリフから察するに、やっぱりナンパだった。
しかも兄弟に間違われているのがわかって気分が落ちる。
なんて答える?このまま兄弟のフリするか…。それとも無視?
窺うようにリカちゃんを見ると前髪で目元が隠れていてその表情はわからない。
けれど唇は楽しい遊びを見つけたように笑っていた。
「あのー…」
それでも何も答えない俺たちを訝しがって、お姉さんの方と思われる女の人が声をかけてくる。その目はしっかりとリカちゃんをロックオンしていた。
「兄弟に見えます?」
よそ行きのリカちゃんの声。先生の時とはまた違う雰囲気に俺は目を瞬かせた。
きっと、これが『大人』を相手にするときのリカちゃんなんだろう、そう思った。
目を惹くイケメンが優しい声で答えたからか、2人のどちらも顔を染め、もじもじと身体をくねらせる。女が嫌いな俺にとっては見るだけで嫌気がさす仕草だ。
「え、あの、」
「あぁ。もうこんなに混んでたんですね。僕ら食べ終わったので、ここどうぞ」
無視でも応えるでもなく上手く受け流すリカちゃんに感心したのも束の間、白い手がぬっと伸びてきた。
「え、いや、でもっ!」
そそくさとトレイを持ち上げ席を立ったリカちゃんの腕をお姉さんが掴んだ、その手。俺のものに触れるな…そんな気持ちから目が鋭くなる。
けれど、そこはリカちゃんだ。やんわりそれを離し、距離をとる。
「手。離してくれます?」
「……あの、少しだけでもいいから」
「この子、僕の飼い主なんです。僕この子のヒモってやつなんで、そういうのはご主人様に聞いてもらえますか」
その言葉に3人が固まる。もちろん俺と女の人の3人だ。
言葉を失い、何が起きたか考える……隙もなくリカちゃんは次の行動に出た。
「ウサギ。行くぞ」
「あ、う、うん…」
リカちゃんに呼ばれ、思わず返事してしまったが…なんせ視線が痛い。
絶対コイツら変だと思われているだろう。いい年した男が明らかに高校生のヒモなんてぶっ飛んだ話だ。
凍りついた空気の中、リカちゃんは颯爽と去って行く。
いつまでも刺さる視線を背中に感じながら、逃げるように俺は足早にそれ追いかけた。
「なんだよさっきの!!」
店からだいぶ離れた所でやっとリカちゃんに追いついた俺は、その肩を掴む。
「何ってナンパだろ?姉妹でとかよくやるよなぁ。大して可愛くもないくせに」
「ってそうじゃなくて!!飼い主とかヒモだとか…一体どんな躱し方だよ!!」
あんなの躱してない。躱すというより、むしろ遊んでいるかのような行動。
そう思ったのは、どうやら正しかったらしい。
目の前の性悪男が声を殺して笑う。
「はっ。見たかよあの時の顔。カエルみてぇな顔して驚いてたよな」
「や、やっぱり……」
「人をからかうのって何でこんな楽しいんだろうな?」
こいつ……マジで性格悪い。昼飯を食べた短時間で、俺はしみじみとそれを痛感したのだった。
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