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第52話
保健医に礼を言って俺は保健室を出た。
あれだけ激しくヤりまくったからか足がフラフラするし、声も枯れ気味だ。
のんびり時間をかけて 教室に戻れば、すでにHRが終わっていて、俺の机には歩が座っている。後ろの席には拓海の姿もある。
「慧。お前さ、朝来てサボって昼飯食ってサボって、んで帰るって何しに学校来てるんだよ?」
責めるような拓海の視線から顔をそらす。
「何って……」
「獅子原とセッ、」
なんだかヤバイことを言いかけた歩の口をパッと塞ぐ。すると、その下で歩がニヤニヤと口を歪めて笑っていた。
「何? リカちゃん先生がどうしたの?」
「リカちゃんに説教されんぞって言いたかったんだよな?な?」
「……あー、うんまあ。そんな感じ」
いつも思うけれど、歩はここが教室だってわかってるのだろうか?
もう放課後とはいえ、人の目がある。
ほら例えば……この嫌な視線とかだ。
「兎丸君。一緒に帰ろう?」
自分の鞄を肩にかけ爽やかに笑いかけるのは鷹野。その声に俺は固まり、背中に冷や汗が流れた。
硬直した俺に、鷹野はふんわりと微笑みかける。
「何その顔。帰る約束してたの忘れてた?」
どうしてこんな風に笑えるんだろう。コイツには罪悪感とかそういうのは無いんだろうか?
そんなの考えても無駄だ。だって、そんな感情が鷹野にあるのなら、俺を脅したりしない。
今のコイツにあるのは新しい玩具を見つけた満足感。そしてそれを思い通りにできる優越感。きっとそうに違いない。
黙って帰る支度をする俺と、楽しそうな鷹野を見て拓海が場違いな明るい声を上げる。
「鷹野と慧ってそんなに仲良くなってたんだ?慧って人見知りすげぇから、なんか妬ける」
「うん。話してみると意外に気があったんだよ」
その作られた鷹野の笑顔が気持ち悪くて睨みつける。もちろん、拓海と歩にはバレないよう、心の中でだけど。
それなのに俺の異変に気づいたのか、歩が口を開いた。
「俺にはそうは見えねぇけど」
俺の隣で立つ鷹野の肩を歩が掴む。その手はきっと力が込められているんだろう。見るだけでわかるほど、歩の手には筋が浮かんでいた。
「本当か?慧」
秘密を握られ脅されてるって言いたい。けれどそれを言ったら困らせてしまう。
俺は、心の奥の奥に全てを隠し、頷く。
「うん、まぁ…鷹野、いいヤツだし」
こんなの嘘でも言いたくないのに。それなのに鷹野の目がこちらを向くだけで、俺は従わざるを得ない。
「いい加減離してよ。というより、牛島には関係無い話だよね?さあ、兎丸君帰ろう」
心配そうな拓海と、まだ鷹野を睨みつける歩に別れを告げ、俺は教室を出た。
***
「…なーんかあの2人変じゃね?」
鈍い拓海でも気づいた。 やっぱり、どう考えても変だ。だって慧は鷹野を嫌っていたはず。
帰る間際に見えた、慧のあの怯えた目。鷹野の自信にあふれた笑顔に嫌な予感がする。
「悪いけど…俺、用事思い出したから先帰る」
「ちょ、歩!!」
拓海を放って教室を出る。
柱の陰に隠れ、ポケットからスマホを取り出した俺はソイツに電話をかけた。
数コール経ってから出た相手はもちろん、1人。
「………俺。なんかヤバい事になってるかも。アイツを守ってやって……こんなの兄貴にしか頼めない」
受話器の向こうで兄貴の…理佳の舌打ちが聞こえた。それがあまりにも恐ろしくて、電話を切った俺は深いため息をつく。
鷹野が何をしてるのか、慧が何をされているのかは知らない。けれど、弟の俺から鷹野に言ってやりたいことがある。
うちの兄貴は、ヤバい。
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