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第67話
「ただいま!待たせちゃってごめんなさいね」
俺たちの元へ戻ってきた桃ちゃんは、一仕事終えたとばかりにスッキリしている。
さっきの様子との変わりように、あの後どうなったか聞きたいけれど聞くのが怖い。聞いていいのか…それとも止めておくべきか、悩む俺の代わりに空気を読まないヤツが口を開く。
「で、どうなったの?」
ストレートに聞くのは拓海。ビビリのくせに好奇心だけは旺盛だ。
拓海を見た桃ちゃんが唇に手を当てて、ふふっと笑った。その顔は、すげぇ楽しそうに見える。
「ちょっとキツく言ったら大人しく従ったわ」
にっこりと微笑んだ桃ちゃんに、その後に立っていたリカちゃんが小さく呟く。
「どこがちょっとだよ…だから元ヤンは怖、って痛いんだけど」
「余計なこと言う口は縫いつけるわよ」
リカちゃんの唇を抓りあげた桃ちゃんが、俺たちを振り返る。そのまま促されるようにして教室を出て、帰るために外へと向かう。
今日は残業もなく、リカちゃんも一緒に帰れるらしい。人気の少ない裏口で合流した。
全員が集まり、桃ちゃんが大きく頷く。
「ふふ。さ、帰りましょう!今日はリカの奢りでパーティーよ!」
「待て。俺達は明日も学校だし、お前も大きな案件抱えてんだろ?」
「細かい男はモテないわよ!早く車取って来なさい」
桃ちゃんに言いくるめられ、諦めたリカちゃんの後ろ姿を見つめる。車を取りに行くべく、駐車場へと向かう背中が小さくなっていく。
すると、不意に軽く背中を押された。振り返れば、桃ちゃんがニッコリと笑っている。
「ウサギちゃん。あたし達買い出しと準備があるから先に行ってるわ。そうね…2時間ぐらいリカの相手お願いしていいかしら?」
「それって…」
聞き返した俺に、桃ちゃんは手を差し出した。手のひらの方を向けて開いたそれを、顔の高さまで持ち上げる。
「あ、リカの家の合鍵預かっていい?もちろんちゃんと返すから」
バチンッと軽快にウインクをした桃ちゃんは、俺から鍵を受け取り、歩と拓海を連れて歩いてく。去っていく友人2人が肩越しに俺を見て言った。
「慧!兄貴を頼むぞー」
「けーい、戻ったらお祝いだからな!ちゃんと苺の乗ったケーキ用意しとく!!」
3人の背中を見つめた後、俺は走り出す。
「遅ぇよ。寒くて凍える」
駐車場では、意地悪で大好きな先生が車に凭れて俺を待っていた。来るのがわかっていたのか、エンジンは既につけられていて、車内は暖房が効いている。
「何時間後に帰って来いって?」
全てお見通しのリカちゃんが車を走らせながら言う。
「2時間。パーティの費用は請求するって」
「マジか。あいつ不必要なもん買いまくるんじゃねぇだろうな…」
こんなに穏やかにリカちゃんと話すのは久しぶりで、なんだか緊張してしまう。
ぎゅっとシートベルトを握る俺の手に、リカちゃんの大きな手が重なった。
「手、握ってていい?」
いつもは絶対にそんなこと聞かないのに、聞いてくるリカちゃんがもどかしくて俺から握る。それに気づいたリカちゃんが指を絡め、ギュッと強く力を込めた。
「どこ行くの?」
そう訊ねると、リカちゃんは横顔を向けたまま答える。
「ケジメ付けに。ちゃんとあいつの前で言葉にしたい」
それからリカちゃんは黙り込み、俺も何も言わない。
移りゆく景色を眺めて、しだいにどこへ向かっているのかに気づいた。
目的地に着き、車を停めて歩き出す。大きな木の傍にある門をくぐって、ずっと奥の小高い丘にある右から3つめ。
星兄ちゃんがそこに眠っている。
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