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第69話
*
あれは久しぶりに大雨が降った日だった。
いつものように桃と豊と、星一…そして俺の4人でくだらない話をして、バカみたいに笑っていた。
「獅子原!!」
血相を変えて俺を呼びに来た担任の顔は今でも覚えている。何事かと職員室へ行けば、母親が緊急搬送されたと聞かされた。
仕事中の父親とは連絡が付かず、病院で付き添っているのは幼い弟1人だけ。俺は急いで病院へ行こうとした。
大雨の中、星一に付き添ってもらいタクシーに乗り込む。
言いようのない不安からキツく掌を握りしめる俺に、星一は大丈夫だと何度も声をかけ、落ち着かせてくれた。
隣に星一がいてくれて良かったと心から思った。
タクシーを降りて走り出す俺の名前を叫ぶ星一の声。打ち付ける雨の音にも負けない、大きな声と衝撃を背後から感じた。
あの時の事は今でも鮮明に…まるで今この場で起きているかのように目に焼き付いている。
いや、焼き付いている……なんて可愛いもんじゃない。
忘れたくても忘れられない。目を瞑れば、すぐにでも俺はその場に舞い戻ってしまう。
振り返るよりも早く感じた手の感触に、思わず倒れこみ…数秒してから後ろを見る。
そこにあったのは赤く染まる親友の姿。
雨で視界が悪くなっていた車が俺にぶつかる刹那、星一が俺を突き飛ばした。
俺が轢かれるはずだった場所に横たわっている星一と目が合って……あいつは小さく笑った。
勉強ができて、人望があって、お節介で。
それでいて変なところは頑固だった。優等生のくせに屋上でタバコを吸い、ヘラヘラと笑いながら空を見上げていた。
星一がいれば自然とそこに笑顔が溢れる。
そんな星一に俺は密かに憧れていた。周りと馴染めず、退屈な毎日から抜け出せたのは星一がいてくれたからだ。
誰よりも真っ直ぐで、誰よりも強い。
辞書で正義とひけば、それは星一の事だと思った。
それだけ、俺にとって星一は『特別』な存在。
ずっと何年もの間、自慢の親友を身代わりに生き残った自分が許せなかった。
悩んで悩んでたどり着いた答えは、残された俺のすべき事は彼の代わりに生きる事だというもの。
彼が守りたかったものは何にも代えて守る。
彼の見たかった景色を見て、したかった事をして、会いたかった人に会う。
その全てを叶える為に生きようと決めた。
星一の為に、星一の代わりに。
自分はあの時消えるべきだったのだから、何も辛くない。そうするのが当然なのだ、と疑いもしなかった。
――あの瞬間から俺は自分を抹消した。
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