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第72話
リカちゃんの服を掴み、もう絶対離れないよう強く抱きつく。
それでも夢なんじゃないかと不安で仕方ない。
「リカちゃん……っ、リカちゃん」
「もう黙って」
リカちゃんがそっと口付ける。
最初は軽く、次第に深く…まるで今までの時間を埋めるように唇同士が重なり合う。
「んっ…ぁ、リカちゃん」
「何も見えなくなるぐらい、俺は慧が好きだよ」
「リカ、っふ…ぁ………」
恋人同士になって初めてのキス。
今までと同じようで、それでいて全く違うキス。心の奥から蕩けて温かくなる。
唇を離した後、リカちゃんはバツが悪そうに口元を隠してしまった。
縋りついていた俺を離し、自分で立つように言ってくる。
なぜ?と首を傾げると、リカちゃんはチラッと星兄ちゃんの墓を見た。
「これ以上したら、夢に星一が出てきて怒鳴られる」
「なんて?」
「人の墓前で堂々とディープキスなんかしてんじゃねぇよ!てめぇがイチャついてんの見て寒気したわ!……とか?」
「星兄ちゃんがそんなこと言うワケねぇだろ」
「だからお前の前ではいい兄貴演じてたんだって。あいつ本当に性格悪いんだからな……って墓の前でする話じゃねぇな」
2人でクスクスと笑って星兄ちゃんに向き合う。黙って手を合わせ、心の中で星兄ちゃんとの久しぶりの会話。
(星兄ちゃん。俺、今すごく幸せだよ)
だって隣にはリカちゃんがいてくれるから。
本当は、もっと星兄ちゃんにたくさん話したい事があるんだけど、それはまた今度にすることにした。
ほとんど惚気になっちゃうけど…星兄ちゃんなら笑って聞いてくれるだろう。
だって星兄ちゃんもリカちゃんが大好きだから。
しばらく黙って星兄ちゃんと向き合った後、リカちゃんがそっとしゃがみ込み、手のひら全体で墓石に触れた。
「星一。俺、教師の仕事好きだよ。これからも続けたいと思ってる」
タイミング良く吹いた風がリカちゃんの髪を揺らす。
「絶対に大事にする。泣かせない……ってのは無理だけど」
「泣かせんなよ」
何言ってんだよ、と軽く睨めばリカちゃんは悪戯に笑って意地の悪い顔をした。
「それは無理。俺お前の泣き顔見んの好きだし。まぁ…………それ以上に幸せにしてみせるからいいか」
「何様だよてめぇ」
冷ややかに言い返した俺を、リカちゃんが見つめる。細められた黒い瞳の穏やかさに、俺から自然と笑みが零れた。
「ずっと……ずっと思い続けるって誓うよ」
そっと落とされた誓いのキス。
祝福するように、どこからか柔らかく暖かな風が吹いた。
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