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第73話

* 「お帰り」 無事仲直りし、帰ってきた俺たちを出迎えたのは、拓海でも歩でも、桃ちゃんでもなく… 厳つい顔でお玉を手に、エプロンを身につけた美馬さんだった。 「やだぁ!!!変態教師が帰ってきたわよ!」 玄関扉が閉まる音を聞きつけたのか、リビングから顔を出した桃ちゃんがニヤニヤとリカちゃんを指差す。 「このオカマ野郎…お前にだけは言われたくない」 荒々しく部屋へ上がりこむリカちゃんの後ろで、俺は気恥ずかしさからそっとリビングを覗き込む。すると、ソファに座っていた歩と拓海と目が合って手招きされた。 言い合っているリカちゃんと桃ちゃんを美馬さんに任せ、俺はそちらへと向かう。 「お帰り。リカちゃん先生と仲直りできた?」 「うん…出来た」 訊ねてきた拓海に答えると、その隣でタバコを吸っていた歩が俺を見て微笑む。 「兄貴、スッキリした顔してんな。あんな風に笑う兄貴久しぶりに見た。いつも死にそうだったからなアイツ」 弟だからこそ知る一面があるのか、歩は安心したようにリカちゃんを見る。 それに倣って拓海も。リカちゃんを見て、俺を見て、そしてため息を零した。 「はー…なんかリカちゃん先生と歩が兄弟ってのも驚きだけどさぁ…まさか慧とリカちゃん先生がかぁ」 「俺とリカちゃんがなんだよ?」 その先を聞くと、拓海はにっこり笑った。 「だから前に2人はアリだって言っただろ?ほら、俺の予想当たってんじゃん」 「俺としては兄貴が高校生に手出したって結構ショックだけどな」 「まぁ歩のその気持ちはわかるけど。俺も兄ちゃんが男子高校生と付き合うって言ったら複雑かも」 歩はショックだと言うけれど、好きになってしまったものは仕方ない。たとえ反対されたとしても、俺はリカちゃんと離れるなんて無理だ。 友情の危機かもしれない、と俺は顔を伏せた。すると俯いた俺の髪を歩がかき乱す。 思わず顔を上げれば、珍しく嬉しそうに笑う歩と目が合った。 「別に悪いとは言ってねぇだろ。そんな顔すんなよ」 「そうだぞ慧。そんな顔してたら、歩が慧のこと苛めたってリカちゃん先生に勘違いされる!そしたら歩が立たされるんだからな!!」 「立たされねぇよ。なんで家に帰ってまで教師すんだよ、バカか」 怯える拓海と、それに呆れる歩。そして気の抜けた俺……声を上げて3人で笑いあう。 その光景を、キッチンのカウンター越しから大人組が眺めていた

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