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第74話

* 「あらあら。可愛らしい…」 だらしなく口元を緩めたオカマに、そっとティッシュを差し出してやる。 「涎垂れてるぞ変態」 すると桃はこちらを睨みながらも、受け取ったそれで口元を拭った。 「うっさいわね!!アンタも十分変態よ!でも…やっぱりウサギちゃんは笑った顔が1番だわ」 そう言った桃の言葉に俺は改めて現実を噛み締める。 たくさん傷つけて、たくさん泣かせたのに。それでも俺を守ろうとしてくれた。 あのクソ生意気なバカウサギが、必死に自分の言葉を紡いでくれたことが嬉しかった。 黙って桃の台詞を肯定する。そうすれば、恋愛バカのオカマは口を尖らせて拗ねる。 「あーあ。あたしも可愛い恋人がほしいわ」 「お前には豊がいるだろ」 「いやよ。こんな凶悪なデカブツ。身体がいくつあっても足りな…アブッ!」 さりげなく悪口を言った桃の顔面にしゃもじがめり込む。 渾身の力で押さえつけたそれを、グリグリと他人の顔に擦り付けながら笑う悪友の姿に身震いした。 悪知恵の働く星一に、ムードメーカーの桃。 後ろの方で眺めながら程よいところで軌道修正をするのが豊。 俺の大切な…親友だ。 「…迷惑かけたな」 小さく呟けば、2人が揃ってこちらを向く。 「あらヤダ。あのリカがやけに素直だわ」 「明日は雪だな。洗濯物が干せん」 「お前らねぇ……」 月日が経ち、形を変えたとしても根本は変わらない。いつまでも繋がっていくものがある。 かなり遠回りしたけれど、やっとそれを取り戻せた気がした。自分だけでは乗り越えることの出来なかった壁を越えた。 数年ぶりに桃と豊と向き合えた、と言っても過言ではない。 少し照れくさくて2人から顔を背ける。 「リカはこれから大変ね!」 「…そうだな」 「何がだよ。俺はこれから慧といちゃいちゃして過ごすんだから大変なんかじゃない」 言い返すと、グフフと下品に笑った桃が俺の頬を突く。 「これからどんどん育っていくウサギちゃんを繋ぎ止めれるかしら?あの子、無自覚に人を寄せ付けるわよ?」 視線だけでウサギを見て、からかってくる桃に豊も同調する。 「そういうところは星一と同じだな。リカは兎丸の血に弱いのかもしれん」 「お前ら2人揃って悪魔か……」 確かに桃の言う通り、俺とウサギの間には10年という年の差がある。それに加えて教師と生徒の許されざる関係。 そして男同士というアブノーマルさ。 それはいつか悩みの種となるだろう。 「そーれーにー。リカってばウサギちゃんにメロメロでしょ?意外と乙女趣味で意外と束縛魔だし?」 「確か前に首輪を付けたいと言っていたよな」 言い返さない俺に、桃と豊は好き放題だ。けれど否定はできない。 本当は雁字搦めにして逃げないように見張っていたい。その背中にある羽をもぎ取って、何処にも行くことのないように閉じ込めてしまいたい。 けれど今はウサギの思いを尊重したい。 「大丈夫。今なら何でも出来る気がする…俺は慧の為に生きるって決めたんだよ」 驚き瞠目した2人に、俺は得意げに笑った。それと重なるようにリビングから騒がしい声がする。 「リカちゃーん。腹減ったんだけどまだかよ」 「桃さん、手伝いますよ」 「美馬さん!!トマト抜いてくれた?!」 それぞれの名前が聞こえ、俺たちは顔を見合わせて笑う。 何もしないくせに偉そうなウサギに、手伝うと言ったくせにソファから立ち上がらない歩。1番無害そうな豊に声をかけた鳥飼。 3つの顔がこちらを向いていて、なぜだかとても安心した。

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