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第5話
ユグはかつてなく緊張していた。
解決策は受け入れたものの、その実行方法というのがまずかった。
リュカとユグを一つの命として数えるには、より強い魂の結びつきが必要だ。身体を丸々作り変えるようなものなのだから、2人がそれぞれに持つ魔力を馴染ませて、溶け合っていることが自然なことなのだと思い込ませなければならない。それにはできるだけ高濃度の体液交換が望ましく――つまり、直接的に言ってしまえば、セックスか、それに近いことをしなければならない、ということだった。
よこしまな気持ちが微塵もなければそこまでうろたえたりはしないだろう。けれど、ユグは自身がリュカに抱く感情は性愛を含むものであると自覚しつつあったものの、それを肯定しきるほどにはまだ開き直れてはいなかった。降ってわいた機会にうろたえる内に夜になり、一緒に住んでいた少年時代でもついに訪れることはなかった、リュカの寝室の扉を前に、彼は今ノックをすることもできず立ちすくんでいる。
――このままでは、夜が明けてしまう。
「う」
いつの間にか、細く扉が開いている。その隙間からじっとりとユグを見つめる空色の瞳を見つけて、ユグは慌ててノブに手をかけた。
しっとりと水分を含んだ髪に、血色のよい頬をしたリュカは、匂い立つような色香を纏っていた。着心地のよさそうな薄手のシャツとパンツはおそらくいつも着ているものだろう。彼は情けない顔をしたユグを見上げて、往生際が悪いと鼻を鳴らした。
「早く入りなさい」
「うん。……ごめん」
「君は本当に意気地なしだね。そりゃあ、気持ちのいいことじゃないだろうけど、君が死なないように手を尽くしてやろうというわたしの親心をもっと考えたらどうだい」
「そうだね。ごめん」
気持ちの良いことではない。親心。その言葉に現実を突きつけられて、ユグはますます項垂れた。何を舞い上がっていたのか。これから行う行為は、リュカにとってただの作業なのだ。
柔らかなベッドに腰かけたリュカは、ゆっくりと近づいてくるユグの手をとって、静かに問いかけた。
「ユグ、最後の確認だけど。本当にいい?もう少し時間をかければ、もしかしたら別の方法も見つかるかもしれない」
「うん。いいよ。俺はリュカの傍に居たい。――俺はたぶん、あなたのことが好きだ。保護者としてのリュカじゃなくて、愛を誓う相手として。だから……こういうのは役得だって言うか……すごく不純な動機が入ってしまうから申し訳ないと言うか」
「たぶんって、なんだよ……いや、そこじゃなくて、なんだって…?わたしを、好き?高々二十年生きたくらいの生き物が、そんな高尚な感情を理解できるのか?知らないようだから忠告しておくが、わたしと君が番っても子どもは無理だぞ」
ごちゃごちゃと言い募るリュカを、ユグは目を丸くして見つめた。もしかしたら自分は、ものすごい勘違いをしているのかもしれない。――この引きこもりの魔法使いは、長い寿命に高をくくって、まだ恋さえもしたことがないらしい。
「知ってるよ。それくらい。とにかく、俺は後悔はない。リュカさえよければ、始めよう」
「……じゃあ、これを」
リュカは自分の胸に手を当てて、歌うように何節かの言葉を口にした。魔法を言葉に乗せて使うところを、ユグは初めてみた。
ゆっくりとリュカの手が胸の中に沈み、引き抜かれる。掌に収まるのは、薄く赤みがかかった小さな宝石だ。
「これが君の心臓になる。わたしと君をつなぐパイプ役だね」
「リュカの心臓?」
「その一部だ」
美しい宝石を魔女の呪いで囲まれたユグの身体に押し当てる。心地よい暖かさのリュカの心臓が、ゆっくりとユグの中に入っていく。
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