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第3話
傷痕の事を人伝に聞いたのだろう。
王都から馬を走らせ、郊外に建つ私の私邸へダルクはやって来た。
余程急いで来たのか、短く切りそろえられた黒髪に木の葉を絡ませ、日に焼けた肌からは滝のような汗を流し、常に静かな青い瞳は焦りの色を映している。
野性味ある風貌と剣術の強さから『不動の鬼』と呼ばれている人物とは思えない姿だ。
「カヤークシナ師団長。傷の具合はどうだ?」
「お陰様で良好ですよ」
手にしていた本をテーブルに置き、椅子から立ち上がってみせる。
「この通り日常動作には問題はありません。但し、完治した訳ではないので暫くは安静にしていないといけませんが」
微笑む私とは対照的にダルクは苦い顔をした。
「師団長。不躾で申し訳ないが、腹の傷を見せては貰えないだろうか?」
予想していた申し出に、困惑の表情を作り首を横に振る。
「どうか勘弁して下さい」
断ると、私の意志を無視し、ダルクは無理矢理シャツをたくし上げた。
想像よりも酷いものだったのだろう。ダルクは表情をなくした。
「すまない。俺が未熟なばかりに……」
豪剣士の称号に相応しい大柄な身体を小さくして謝るダルクが愛おしくて、笑ってしまいそうになるが、必死にそれを堪える。
「止めて下さいダルク殿。本当なら死んでいてもおかしくない程の傷だったのです。それを貴方が助けてくれたんじゃないですか」
「だが……」
「私たち騎士は死と隣り合わせに生きています。傷痕などなんでもありません」
申し訳なさそうに俯く姿に私はほくそ笑み。
「療養中で暇を持て余しています。もし宜しければまた顔を見せに来て下さい」
次を促した。
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