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第5話
校長先生をはじめ、先生たちにはこっぴどく叱られたけれど、アシュレイやディアマンがかばってくれて、厳重注意だけで済み、早めに解放された。
二人には申し訳ないのと同時に、すごくありがたいと思う。
「あとはおまえら二人でよ~く話すんだな」
別れ際、ディアマンがそう言って意味深に笑う。ひらりと手を振って、自分の部屋へと戻っていった。
その背中にもう一度頭を下げて、スパークルは歩き出していたアシュレイを追った。
アシュレイに続いて部屋へと入る。
「先輩、ごめんなさい」
ドアを閉めるなり謝ろうとしたら、いきなりアシュレイに引き寄せられた。
「せんぱ……い?」
抱きしめられたことに気づいて動揺する。
「君が無事で良かった」
安堵の溜め息とともに吐き出されたその声に、スパークルは嬉しくなった。でも、すぐに微かな痛みとともに、胸がきゅんと締めつけられて苦しくなる。
アシュレイの肩口に顔をうずめていると、彼のいい匂いがした。こんなにもアシュレイの体温を近くに感じたのは初めてだった。とても温かい。
「ごめん」
「いえ……」
短く謝って、アシュレイが慌てたように身体を離す。アシュレイの温もりも離れてしまって、スパークルは急に寂しさを感じた。
「お腹減っただろ?」
アシュレイは ブーツを脱いで部屋に上がり、マントを脱いでクローゼットにしまうと、キッチンへと消えてしまった。
スパークルもブーツを脱いで部屋に上がる。
荷物を置いて、洗面台へ行き、手とついでに顔も洗った。
テーブルに着くと、アシュレイもトレイを手にちょうどキッチンから戻って来るところだった。
「こんなものしかないけど」
焼きたてのパンとシチューにサラダ、ホットミルク。それらが手早くテーブルに並べられる。全部魔法で用意したらしい。改めてアシュレイのすごさに感心する。
「いただきます」
スパークルは手を合わせると、さっそくパンにかじりつく。
「美味しい!」
料理は全部美味しかった。
アシュレイもスパークルの向かいに座り、目を細めてスパークルの食べっぷりを満足そうに眺めていた。あの一件以来、はじめて穏やかでくつろいだ空気が流れている気がする。それがスパークルには嬉かった。
寮の入浴時間は過ぎていたので、部屋に備え付けのシャワーを借りた。
アシュレイもバスタオルで髪を拭きながら、シャワールームから戻って来る。
時計の針は23時を回っていた。
「先に寝てても良かったのに。今日はもう遅いから寝よう。君はいつもみたいにベッドを使うといい。僕はこの部屋で寝るから」
「この部屋で寝るって、どこで?」
「床でいいよ。適当に転がるから」
「じゃあ、俺がこの部屋で寝ます」
スパークルは慌てた。アシュレイを床で寝させるなんて忍びない。
「君が僕の部屋に来てから、よく眠れてないのは知っていた。僕の姿をした悪魔に襲われたんだ。思い出したりもするだろう?同じベッドで寝たりして、配慮が足りなかった。ごめん」
「先輩が謝る必要なんてない。俺の方こそ、迷惑ばかりかけてるのに」
「気にしなくていい。もう何日かして学校全体の安全が確認されたら、元の部屋に戻れる。それまで我慢してくれないか?」
「我慢だなんて。部屋に置いてもらってるだけでもありがたいのに。インキュバスのこと、本当にごめんなさい!俺がヤツを引き寄せたんだ。俺の中に汚いものがあったから。先輩に嫌われても仕方ない……」
矢継ぎ早に言ったあとで、スパークルはうつむいた。アシュレイの顔を見るのが怖かった。
そんなスパークルの頭を、アシュレイの手が優しく撫でる。
「自分をそんな風に責めたりしなくていい。君を嫌ってなんか、いないよ」
「えっ?」
思いがけないアシュレイの言葉に、スパークルは目を見開く。顔を上げると、アシュレイの穏やかで優しい瞳とぶつかる。
嫌われてない。
良かった!
それだけでも、たまらなく嬉しい。抑えきれない、熱い想いが込み上げてくる。
「俺、先輩のことが好きなんです!だから、これからも俺の育成係でいてください!」
ほとんど衝動的に、口から思いがけない言葉が飛び出してしまい、スパークルははっとする。一瞬だが、血の気がひくのを感じた。
アシュレイも驚いた顔でこちらを見ている。
恥ずかしさでいたたまれない。穴があったら入りたいとはこのことだ。取り繕うように慌てて続ける。
「あっ……あのっ、好きっていうのはそのっ……。深い意味じゃ……」
最後までいい終わる前に、スパークルは再びアシュレイに抱きしめられていた。
「僕は君のことが、本気で好きだ。君が卒業するまで、そしてそれからも、僕だけの秘密にしておこうと思っていた。でも、もう無理だ。改めて、君のことが、たまらなく可愛いって思う」
アシュレイは続ける。
「君が自分のことを汚ないと言うのなら、汚ないのは僕の方だ。君を襲ったインキュバスを見た時、僕は自分の隠してきた欲望を見せつけられた気がした。自分の気持ちも、もう誤魔化しきれなくて、君ともどう接したらいいかわからなくなった」
アシュレイの告白。
アシュレイがどうして急によそよそしくなったのか、スパークルはわかった。アシュレイもまた、スパークルと同じように悩んでいたのだと。
「僕は清廉潔白じゃない。あのインキュバスが君にしていたのと同じことを。いや、それ以上のことを、無理矢理にでも君にしたいと思ってる。それでもいいの?」
アシュレイはの言葉があまりにストレートで、スパークルは自分の顔が赤くなるのを感じた。アシュレイの眼差しは真剣そのものだった。覚悟も問われている。そう感じた。でも、求められていることすらも、やはり喜びでしかない。
「先輩のこと、俺も本気で好きだから。……先輩になら、いいよ」
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