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第172話

――それから、かなりの時間が経ったが… アキラは、全く目を覚まそうとしない。 顔色のよくないアキラ… これ以上ここで眠っていると身体が冷えて悪いと思い、気は引けたが…そっと名を呼んで起こす。 「…アキラ、アキラ?」 みずきが声をかけると… 「…ゥ…ん」 アキラは少し反応したけれど頭をずらしまた眠ってしまう。 「……」 みずきは困ってしまう。 アキラの様子も心配だったけれど… みずきには、もうひとつここに居づらい理由があった。 夜も更け… 自分たちのまわりにも男女のカップルが多数いて… 思い思いの時間を過ごしている。 すぐ前のベンチにいる恋人たちなどは、人目もはばからず…熱く唇を交わし抱擁しあっている。 こういう情交の場所に慣れていないみずきは羞恥心…そして雰囲気のせいか感情高ぶるような感覚をおぼえる。 みずきとしては…早くここから抜け出したい思いになるが、アキラは依然、すやすや眠っている。 「…アキラ?」 みずきはもう一度、名前を呼んで… アキラの顔を覗いて見る。 よほど疲れているのか…すっかり寝入っているアキラ。 でも…唇の色はよい色とは言えない… そう見つめていると、不意にキスしたい衝動にかられるみずき… 普段なら抑えられる気持ちだったけれど、みずきは…スッと、そのまま眠っているアキラに…やさしく口づけをする。 何度か角度を変えて静かに、くちづけているとアキラの肩がピクっと反応する… 唇も微かに動き… みずきは… スッと身体を引きアキラを見る。 ぱちり、と瞳があう… 「…アキラ、起きた?」 みずきは囁くように尋ねる。 「…ウン、…今、キスしてた?みずき…」 今度はアキラが寝起き顔で首をかしげ聞いてくる。 「…ごめん、つい…」 みずきは苦笑しながら答える。 「ううん…いいよ、なんか…夢かと思って…」 軽く背伸びをしてアキラは… 「寒…」 そう呟く… 「アキラ、そろそろ帰ろう。本当にカゼをひいたらいけない…」 そう、促すように伝える。

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