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【儚い雪の結晶2】
とりあえず、心配なのでベルトで自分の身体と彼の身体を固定して、我が家へ向けてゆっくりバイクを走らせる。
運転している俺の焦りとは裏腹に、彼は、落下する危険があるのに、恐怖心など微塵も見せず飄々としている。
こんな時は、自分に車の運転免許があればと何度も思うのだが…
車の免許を取りに行く時間もお金の余裕もないのが現実…
悔しいが…今はしっかり働いて早く車の運転免許を取れるよう頑張るしかない…
「あ…!」
不意に後ろで声を上げるアキラ…
「ん?どうした?」
ゆっくり走っていたバイクを脇に停め、何かあったのかと心配して後ろを窺ってみる。
「すごい…家にイルミネーション…」
住宅地だが、クリスマスのこの時期、各々の家では電飾で煌びやかに飾っている家が多い…
その様子に驚いていただけだった…
安心して言葉を返す。
「あぁ…この辺は特に飾っているな…」
「ちょっと降りていい?」
「あぁ…」
ベルトを外しバイクから降りて停め、アキラが降りようとするのをさり気なく手伝う。
「歩こっか」
地面に降り立ち、メットを取りながら…そっと瞳を重ね、そう促してくる。
「あぁ」
優しく頷いて、メットを片付け、バイクを押し、彼を気遣いながら、クリスマスの夜の住宅街を2人並んでゆっくり歩く…
「へぇ…すごいな、あんまり夜、出歩かないから気付かなかった」
アキラは電飾で光る家たちを感心したように見て言葉にする。
「あぁ…俺はいつも見ているが…」
仕事帰りに…
ここは通勤路だから…
「なら、教えてくれたらイイのに」
ちょっとツンとした表情を見せる彼…
そんな表情をしても可愛い…
「あ、すまない…いつも見慣れているし、夜は寒いから…出歩くのが嫌なのかと思って…」
彼の可愛さに動揺しつつ、怒らせたかと謝りながらなんとか答える。
「ま、いっか…今日見れたし」
そう優しく許してくれる…
「じゃ…来年も一緒に見に来ようか」
そっと片手で、その華奢な肩を寄せて囁く。
「ふ…」
それを聞いてちいさく呆れたように笑う愛しい人…
「アキラ?」
そっと窺うように囁くと…
「見に来られたらな…」
首を傾げ、微妙に微笑みながら答えるアキラ…
1年後の約束…
彼はいつもはぐらかす…
1年後…自分の身体がどうなっているか分からないから…
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