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第3話《逃避の理》

七月の初め。 朝から雨が降っていて…二人の心境を示し出しているように降りやまない。 二人とは、アキラとルードの事だ。 二週間ぶりにアキラの家にやってきたルード。 いきなりアキラに向かい… 「金だせよ!あるだろっ!」 一階のリビングで、もはや自分より背の低くなったアキラに当たり前のように言っている。 「ルード…金はあるけど、もうお前にやる金は…ない」 「なんでだよ!」 「何に使う金か分からないのに…出せないだろ」 ルードを見てアキラは強く言う。 「そんな事あんたに関係ないだろ!金だけくれればいいんだよ!」 ルードは怒って、アキラの胸ぐらを掴んで怒鳴る。 アキラは肩より少し長めの髪を後ろにまとめ、以前より痩せて、大人びた綺麗な顔だ。 「ルード!頼むから、目を覚ませ、絶対に後悔する時がくるんだ!」 「ッルセなぁ!いいから、いつもの様に金だせって!」 アキラの必死の説得にも聞く耳もたないルード。 「何でだよ、ルード…現実から逃げてちゃ駄目なんだ、お前が本気になったら出来ない事ないんだから、ヤケになるなよ」 逆にルードの肩を持ち、説得しようと言葉にする。 気付いてほしい、今しか出来ない事は他にもあるんだから。 ルードは、少し長くのびた金髪を、ひとつにまとめ結んでいて、耳には派手にピアスをつけている。 アメリカ系顔でスラッと伸びた背のルード、それも似合わない訳ではないが… 「説教聞きに来たんじゃねーよ!」 「…どんなに言われても、お前にこれ以上、金は用意しない」 首を横に振りながら、決意した事をルードに言う。 「あっそう、ならもうこの家に来る理由なんかない…別にあんたから金貰わなくても十分やっていってるけどな…」 そうアキラを突き放しながら、行こうとするルード。 「ルード!ちょ、待てよっ!」 すぐ引き止めるアキラ。 「うっとおしいんだよッ!もう二度とこの家には来る気ねぇからなッ」 怒りながらアキラを無視して行こうとする。 アキラはルードの服を掴み無駄だと分かっていても止めてしまう。 「ルードッ」 「俺はなッ!あんたみたいな人間、大ッ嫌いなんだよ!!触るんじゃねぇッ!」 言うと、同時にアキラの手を払いのけ、強く突き飛ばす。 「痛ッ……」 床に倒れるようにとばされ、身体を打ち、痛みがはしる。 ルードはアキラをキツく睨みつけ… 「さよなら」 冷たく、別れの言葉を言って、そのまま家を出て行ってしまう。 「……」 一人残されるアキラ。 静寂の中、雨音だけが響いている… アキラは辛さに胸が押し潰されそうになる。 打ちつけた身体の痛みも手伝って、アキラの瞳からは涙が流れおちる。 「…ッゥ…ッ」 事実上、ルードからの別れの言葉。 もう本当に帰って来ないかもしれない。 「……」 アキラは唇を噛んで、手で涙を拭って振りきるように雨のやまない戸外へ、傘も持たず出ていく。 「……」 決して小降りとはいえない今日の雨…。 ずぶ濡れで行く先もなく街を歩くアキラ… 15分くらい歩くと、身体がだるくなったアキラ、細い路地に少し入り、建物の影で雨やどりをする。 ふと、見ると目の前に酒の自動販売機がある。 すい寄せられるようにそれへ向かうアキラ。 何もかも投げ出して、忘れてしまいたい…… そんな思いに心が支配されてしまう。 アキラの身体には、多量の酒は毒でしかないのだけど……。

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