6 / 213
第6話
「無理じゃない、今までお前の知識で助けてきているだろう。諦めるには早い…」
アキラの肩に触れてやさしく言う。
それをぼーっと見つめてしまうアキラ。
そのうち、スッとみずきにもたれかかり、抱きつくように背中に腕をまわしてくる。
「アキラ!?」
驚くみずきだが…
「……アンタって、やさしいよな。オレが助けたって?そんなん一人もいねーよ…病院行けば助かる奴は助かるし、ルードなんかオレのせいで不良と遊ぶようになったようなもんだしな…お前だって迷惑かけて、傷つけて…」
そこまで言うと言葉に詰まる。
「……全部裏目に出ちまう。こんなつもりじゃなかったんだ……ただ、オレは本当に……」
(助けたかっただけ…だけど、オレの存在を否定するように…)
ぎゅっとみずきを抱きしめてしまうアキラ……
「分かっている、お前が人を助けようとする心は伝わっているから…」
そっと、アキラを抱きしめてみるみずき…
力の入らないアキラの腕…
「あったかいな、このままオレ、死ねたらいいのに…ダラダラ入院して、惨めになって死ぬより何倍もいい…どうせ、長くないんなら…」
静かに温もりをかみしめて言う。
「何を言っている…?」
みずきは驚いてアキラの綺麗な顔を見る。
「……短くて2年、長くて7年なんだ…オレの命」
ポソッと言うアキラ。
目を見開いて驚くみずき。
「…う、そ…」
つい口に出してしまう言葉…
嘘であってほしい。
「…そう思うなら、それでいいぜ…」
信じなくてもいい、医者と自分にしか分からない事なのだから。
怒ったふうでもなく、笑って言う。
「嘘だろッ!」
両肩を持ち真剣にアキラと瞳を合わせ聞くみずき。
ひどく純粋な瞳。
「…本当。…日本でこの病気の患者、一番生きた奴でも27、だいたいは25までに死ぬんだ…。ハタチから急激に神経伝達力が落ちてな、最後には心筋までダメになってそれまで…」
ゆっくりみずきを見ながら、他人事のように言うアキラ。
みずきは、涙よりも先に抱きしめてしまう。
18になったばかりの細い身体を…いつもなら考えられないほど、強く……
「同情してんのかー?それならよしてくれよな、オレは20年も生きれば十分だ、どうせ生まれてすぐ終わるハズの命だったんだし、死だってな全然恐くねぇよ」
「…そんな訳、ないだろう…ッ」
胸が詰まって、声にならない声で言うみずき。
涙でアキラの服をぬらしてしまう。
「そんなワケあるんだよ…そんな事よりもオレは病気のせいで歩けなくなったり自分で何も出来なくなった時、誰からも相手にされなくなる事の方が、ずっと恐いんだ…見ためだけしか愛されていなかった事を思い知らされるのが…こわい…」
アキラは抱きしめられたまま、瞳を閉じ一番不安に思っていた事を話してしまう。
同情でも、自分のために泣いてくれている、みずきに。
「見放さない」
静かに言うみずき。
「みずき?」
そっと聞き返す…
「俺はお前を見放したりはしない」
強く、抱きしめたまま…
「ふふ、同情でもウレシー…やっぱオレって性格サイアクだな…こんな話して、みずきに同情させて、わかってて、そんな事まで言わせてんだもんな、あんた人がイイからオレのエゴなんでもぶつけちまう…」
みずきに身体を寄せ、笑いながら言葉を返す。
「……今日のコトは、忘れてくれよな…ぜーんぶ、オレのウソだから…」
その言葉と同時に瞳からひとすじの涙がこぼれる。
自分は、こんなふうにしないと、人から必要とされる事がないと思うとむなしくなるばかりで…
「忘れられない、本当の事だろう。アキラ…」
みずきはアキラの髪に触れるように手を添えて、やさしく言葉にする。
「……ッ」
すぐには応えられないアキラ。
セキを切ったように、涙が溢れてきたからだ…
心臓が、ドクンと鳴る。
「…なんでわかるんだよ…ッ」
泣き声まじりで小さくいう。
「わかる、アキラを見ていれば…全部…」
ずっと片想いしていた相手だから…誰より見守ってきた…
「…ゥッ、ひとりに…なりたくない…ッ 」
弱々しく言うアキラ。
一人に、なる前に死ねたらいいのに……そう思ってしまう。
ともだちにシェアしよう!