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第8話

「ハハ、そかな?それにしてもみずきって初めて見た時から大人っぽかったよな、んで、いっつもそばにヨシがいて…あの頃はアイツもチビだったのにな、ヤな奴」 みずきから少し身体を離しながら話しだすアキラ。 「…まぁな、ヨシは高校に入って急に背が伸びたから、俺も信じられないが…」 もう普通に会話する二人、それでも安らげる。 「だよなー、最近ヨシと会ってねぇケド生きてんのアイツ?まだ大学行ってるのか?」 「あぁ、オレの仕事先のコンビニによく顔を出すが、学校には行ってるようだな…」 「へー、やっぱ大学、ッ…」 アキラは話そうとして途中で言葉を切る。 左半身にヒキつるような痛みが、始まり…酷くなる。 自然と眉間にしわをよせてしまう… (…今日3回目か…ッ) 心の内で小さく思うアキラ。 異変に気付き、みずきは心配して聞く。 「どうした?アキラ!?」 しかし、アキラは頭を下げ身体を屈めたまま、小刻みに震えている。 「大丈夫ッ…すぐ治る…ッ」 そう言うと、右手でズボンのポケットから小さい筒状の薬を取り出して、一気に飲み込む。そして左足を引きよせるように座って半身が楽になるのをただ待つ。 「アキラ…」 苦しそうなアキラを前に困惑してしまうみずき… 「…ッ半身の、筋肉が、ツったんだ…5分もすれば、ッ…治る、から…心配すんな…ッ」 呼吸もやりづらそうに、そう苦しげに伝える。 俯いたままだ。 みずきは何も言わず、アキラのそばに来てタオルケットを被せながら隣に座る。 その、みずきに少しもたれかかる。 アキラが苦しみ出して6、7分が過ぎた頃、ぽつりと…。 「……フゥ…効いてきた、薬が…」 アキラは言いながら身体を伸ばす。 顔を上げたアキラは、汗をびっしょりかいている…。 スっとみずきは、自分の服でアキラの汗を拭いてやる。 「…アリガト、持病の発作……今日3回目、たぶん酒のせいだけどな…いつもはこんなにマヒしねーんだぜ…」 みずきに心配させないように微笑む。 「酒だめなのか?」 まだ心配そうなみずきだが、アキラの笑顔にどきりとしながら、静かに聞く。 「おーう、多量の酒はドクターストップかかってるぜ、でも飲まなきゃ、やってらんねーって時あるだろ…オレなんかハタチ待ってたら一生飲めないかもしれないしな、でも今回は飲みすぎてヤバかったケド、お前に見つけてもらわなかったら、あのまま飲み続けてたからマヒ薬で抑えて…」 みずきへ身体を預けたまま、そんな事を言う。 「どうして、そこまで…」 「さぁ、ただ自分の限界を知りたかったのかも…これだけ飲んでも死なねーぞって…」 「……」 黙ってしまうみずき。 「ただの意地かもしんねーケドな…」 笑うように言う。 それを見て、アキラに触れたまま、静かに言葉をだす。 「……意地でも、そうじゃなくてもアキラが苦しんでいるのを見るのは辛い。それでも、一人で苦しませるよりは俺がついていたい、とても、複雑な気分だ」 「…ウン、そうだなオレも…自分の弱みは人に見せたくない…でも、今みずきがとなりに居ると心強い。人間って難しいな…」 左足を軽く摩りながらみずきの言葉に応えるアキラ。 「あぁ」 みずきも頷く。 みずきの返事と共にゆっくり立ち上がる。 左足をマッサージしている。 その動きを目で追うみずき…。 「よし!大丈夫、オレ、帰るわ!」 顔を上げ、軽く言う… 突然帰る気になるアキラに驚くみずき… 「えっ?ど、どうして…?」 みずきも立ち上がる。 「ん?次の発作が起こる前に帰らねぇと、迷惑かけるから…」 悪気もなく言う。 「なぜ?」 「今飲んだ薬、強いから、一日2回までなんだよ。それ以上飲むと身体に悪影響でるんだけど…」 平然と説明する。 「今日は、すでに3回発作起こして範囲量以上飲んじまったんだ。さすがにもう薬、飲めないから、発作起こる前に帰ろうと思って…」 「それなら、なおさら帰せない。薬飲んでもあんなに苦しそうだったのに、ひとりにさせる訳にはいかない」 みずきは必死に止めるが… 「…でも、やっぱ帰んないとダメだしなぁ…」 (薬なしだと発作起こって動けるようになるまでに、3時間はかかるから…) 困ったように呟く。 「なら、俺がお前の家に行く。病気のことも知っておきたいから」 まっすぐ瞳と瞳がぶつかる。 いつになく積極的なみずき… 「…まぁ、オレは構わないけど、みずきだって仕事明けで疲れてんだろ、一緒にいて発作起きたら絶対休めないぞ!わかってんのか?」 真剣な顔をして言う。 みずきは… 「それでもいい。ほっておくよりは…アキラのそばにいたいんだ…」 決意を変える事なく頷きながら、まっすぐ頼む。 「…そこまで言ってくれるんなら、イイけどよ!大丈夫か?」 みずきの瞳を覗き込むように見て言う。 「あぁ、ルードの代わりにはなれないけどな…」 「ばぁか、ありがと。嬉しいよ」 上目遣いに見て、みずきに軽くキスをするアキラ。 不意のキスにドキッとしてしまうみずき… 「じゃ、行こう!オレん家…」 そして、アキラはマイペースにみずきの手に触れ、招くように軽く手を引いている。 みずきは『あぁ』と、頷き、大好きなその人に付き添っていくのだった。 《逃避の理》終

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