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第10話
「まーな…」
アキラはそれに、あいまいに答えて、裏向かいに位置するルードの家へ目を向ける。
(……家に居るわけねーよな…)
一瞬心でそう思い、傘から出て裏門のセキュリティを解除する。
「早くこいよ!」
そして、みずきを呼ぶアキラ。
その様子を、瞳にとらえ、心が少し痛むみずき。
(……アキラは、自分がいつ発作を起こすかわからない状態なのに、それでもルードの心配をするんだな……)
そう切なく思う。
そしてアキラに付いて家の中へ入って行く。
アキラは室内に入るとリビングのソファを目で指しながら…
「そのへん座ってて。コーヒーでいい?」
断定的に聞き、キッチンに向かう。
みずきは…
「いい、それより座っていろよ…」
アキラの身体の具合を心配して言う。
「大丈夫、大丈夫。薬しばらくは効くし、すぐできるからな」
アキラは笑って言って、コーヒーカップをふたつ持って来る。
「ほら、飲めよ。せっかく出したんだし…」
「あぁ、ありがとう…」
軽く頭を下げて礼を言いカップを受けとる。
「はいはい」
そう答えながら、みずきの向かい側に座るアキラ。
「…おまえ、ルードに病気の事、言っていないのか?」
みずきは、ふと気になって聞いてみる。
急に、ルードの名を出され、ドキっとするアキラだが……。
「…うん、言ってない、言いたくないから」
コーヒーを、一口飲んで答える。
「…言えば、もしかしたらルードを戻せるかもしれない」
アキラは、俯き考えるようにポツリと話す。
「…でも、それじゃぁダメだから…同情や哀れみで、ひきとめたくないから…アイツは…」
落ちてきた横髪を耳にかけながら淡々と伝える。
「……」
それを静かに見つめ、聞いているみずき。
「…やっぱりさ、好きなヤツの前では強くいたいモンだろ。もう、そろそろ病気隠しきれなくなるから…ちょうど良かったのかもしんねー、ルードがいなくなって…」
手に持つコーヒーカップを眺めながら話している。
「…オレの中にはルードと一緒に居た日々、楽しかったし…またビョーキのせいで潰れるのは…嫌だからな、最後の最後にアイツに嫌われたのは心残りだけど…たぶん、良かった…」
少し笑っているようにアキラは言う。
「…良くはないだろう。おまえの心は、ルードを探している…」
ぼそっと呟くように言うみずき。
「……ごめん」
それを聞き、アキラは小さく謝る。
「なぜ、謝る?好きな人を求めるのは、あたり前の事、アキラは悪くない」
「ふっ、だよな…でもみずきって、オレの事好きなのにあまり求めてこないよな、キスやSEXなんか一回も…オレお前の愛し方よくわかんねーな。本当に好きなんだろうかとか思わない?」
疑うアキラを見て…
みずきは気持ちを伝えるため相手を見つめながら口を開く。
「俺はアキラが好きだ…それは事実だから。この気持ちに気付いた時は戸惑ったけれど…」
少し言い詰まったみずきだが、口を挟むことなく聞いているアキラ。
「…お前を目の前にすると、一時でも一緒に居たい、触れていたいし、キスしたい衝動にもなる…でも、SEXは…俺自身の記憶の中で嫌な思いとして残っているんだ、それをお前にするなんて…俺の心がストッパーをかけて…心で思っても身体が動かないんだ…」
軽く頭を下げて、静かに言うみずき。
「…残念だな、オレ、あんたなら抵抗しねーのに…せっかくオレの事好きになってくれてんだから…」
アキラはそう言うとコーヒーカップをスッと置き立ち上がり、みずきに近づいて、後ろからやさしく抱きしめる……。
アキラの長い髪と吐息が首すじにかかり、みずきは、心臓の鼓動が早くなる。
「ドキドキする?」
アキラの質問に…
「あぁ」
そう素直に頷く。
アキラは確認してみずきのとなりへ寄り添うように座る。
その肩を無意識に寄せるみずき。
「きっと、お前はオレの事を女として見てるんだよ、だからエッチしたら男だってイヤでもわかるから出来ないんじゃねーかな、半分は…」
にこにこしながら言う。
「そんな事は、」
「ない事もないだろ?」
じっとみずきを覗きこみ言う。
「そんな事は関係ない!」
少しムスっとして言うみずき。
「怒るなって…別にどーでもイイしな、んな事…」
「…怒ってない」
珍しく反抗的になっている自分に驚くみずき。
アキラのおかげだろうか…?
「はは、ゲ、もう十時過ぎたな…みずき明日仕事、何時から?」
身体を離しながら聞く。
「8時からだが…」
「そっか、結構早いな…」
(薬がきれるまであまり時間がねーな…発作起こると3時間は動けない。みずきを付き合わすワケにはいかねーし…)
アキラは考えながらぽつりと言う。
「どうした?」
様子を見て声をかけるみずき。
「ううん、今日泊まるんだろ、3F行こうかオレの部屋。病気の資料も置いてあるから…」
「あぁ」
頷いてアキラについて部屋へと移動する。
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