12 / 213

第12話

……静かな時が過ぎて、明けがた 4時にさしかかった頃。 急にその時は来た。 眠っているアキラが一呼吸で起きる……。 「くッ…ぅ…!」 (左半身ッ…) またか、という気分で、自由のきく右手で酸素マスクを取り口にかけて電源をONにする。 左半身に強烈な痛みと、ヒキつる感覚で心も身体も支配される… 苦し気に呼吸が繰りかえされ、伸びきっている足を曲げようとベッドから落ちてしまう。 (…イテテッ…ッ) ようやく足をまるめ込み座るアキラ。 「…ゥ、ァッ…痛ッ」 身体の痛みが声になって漏れる。 断続的に麻痺が、繰り返される左半身。 その度に、激痛が襲い息を止める。 まだ5分しか経っていないが、アキラの身体は汗だくだ…。 唇が渇く、つらさに薬を欲してしまう。 でもまだ、これが一時間以上続くのだ……そう思うと狂いそうになる。 みずきのいるベッドに頭をあずけ右手で強く布団を握りしめる… 「クッ…痛ゥ、ッハァハァッハァ…」 (くそっまだ負けねぇッ!) 麻痺と麻痺の間の一時、楽な時にそれだけ思う。 自分より辛い病気の人は沢山いる。 自分だけじゃない…それを、心に留めて次の麻痺を待つアキラ。 「ハァ.ハァ…ァッ、痛ィ…ゥ」 ほんの少しずつだが、麻痺の間隔が長くなってくる。 それだけが救いだ…。 だか、自分の身体の衰弱も手にとるようにわかる。 それが起きて30分が過ぎた頃、アキラは自分の身体を支えられなくなって、ベッド下へ倒れるように沈む。 その途端、酸素器のコードにひっかかり、棚に置いてあったそれが音をたてて倒れてしまう。 (ゲッ、やっちまった…) 頭でそう思い、酸素マスクを外し首にかけておく、もう直しにいく力もないアキラ…ベッドの下に伏せている。 その音でハッと目を覚ましたのはみずき…… 一瞬、何が、ここは何処か…まで逆上ったがすぐに思い出し、倒れている物から液がこぼれ出ていたので、たて直したが、アキラの姿がない…。 慌てて、見回し探すみずき4時半過ぎだがあたりは暗くて不安にさせる。 「アキラ!どこだ!」 大声で呼んでしまうみずき。 「…ココ」 小さく答えた声に反応してベッドの下を見る。 (いた!) 小さくうずくまり臥せているアキラを見つけ、抱き起こす。 「ワリィ…起こしたな…」 まず、そんな事を言うアキラ。 汗びっしょりだ… 今は、麻痺と麻痺の間隔だから会話もできる。 「馬鹿!勝手に眠らせて、誰が頼んだ!」 みずきはアキラに向かい強く言う。 みずきにはじめて怒られて驚くアキラ。 「う…ん、頼まれてないな…」 力ない声で答える。 その様子を見て心配そうに… 「もういい、大丈夫か?」 やさしく聞くみずき… 「…あまり大丈夫じゃないかも、喉が渇いた…」 かすれた声を出して答える… 「わかった」 みずきはすぐ上に置いてある水を取りにいくが… 「くッ…痛ゥ…」 アキラの身体に麻痺が起きる。 半身がヒキつり痛む…。 今日、何度となく起こった…そしてまだ続く事。 息がしやすいように上を向き布団を右手で浅く握る。 (……苦しい) みずきはその手をとり、右側に座って肩を抱くように腕を回し左腕を軽くマッサージしはじめる。 ファイルの処置法に、書いてあった事を…。 「ァッ!…ッ」 少し痛みを訴えたので戸惑うみずき。 触った腕の筋肉が、異常なほど硬くなっている。 「ぁ、アリガト…つっ続けて…」 アキラは詰まりながらそう言い、みずきに頭を預ける。 長い髪で顔が隠れているが、苦しんでいるのは息使いでわかる。 言われた通り、続けて腕をマッサージをするみずき。 アキラがポソッと声を出す。 「ッ痛ぃ…ッ」 「どこが?」 すぐ聞き返すみずき。 「ぁ、足が…太腿が、つって、一番…イッ」 その訴えにふとももを静かに揉みはじめる。 「ァッ!ッー…」 マッサージの最初は、激痛が走り、右手でみずきの手に爪をたててしまうアキラ。 みずきも痛かったがアキラの手を離すことはしない。 次第に、爪をたてていた手も緩む。 「ふぅ…気持ちいい…楽になる」 みずきの温かさが安心させてくれる。 ツッていた身体が、間隔に入ってまた一時弛緩し楽になってくる。 みずきもアキラの筋肉にかかっていた負荷が弱くなるのを感じる。 「さんきゅー、オーツー(酸素器)取って、直さねーと酸素不足だ…」 みずきはすぐ取ってやる。 「ど、も電源入れれば何とかなるか…」 ひとりごとのように呟き電源をONにして、酸素マスクをつける。 すっと、水を持ってくるみずき。 「飲むか?」 「あぁ、アリガト…」 少し笑って受け取ろうと、右手を出すが、力が入らない。 発作の反動か?思いつつ… 「…ついでに、飲ませてくれよ」 そうみずきに頼む。 「あぁ」 頷きマスクを外して、飲ませてやる。

ともだちにシェアしよう!