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第15話
「ムダだよ、誰が言っても同じ事!変わらない…」
「…他の奴にも病気の事を話しているのか?」
「いいや、他人じゃオマエと社長くらいだよ、まぁ、社長は信じちゃいないけど、また逃げだす口実くらいにしか思ってないからな」
「……」
また考えこんでしまうみずき。
「ま、契約書には長期入院なんかになったら自動的にやめれるから、もう一年ぐらいは、我慢だな…」
「大丈夫なのか?俺がついて行こうか?」
みずきも不安で、やさしくアキラに語りかける。
みずきの心配そうな顔をしばし見つめクスッと笑って…
「あんまり…心配しなくてもいいぜ、オレ、あまり人に心配されたコトないから、どう反応していいかわかんねえだろ…」
軽くいい、微笑み頭を上げてみずきに口づけし…また寄りかかる。
アキラの行動に、みずきは嬉しくなるが…。
「心配しないなんて事は出来ない。お前だってそうだろう、大切な人の事は気になる」
「…そうだよな」
ぽつりと言ったかと思うと、それっきり黙ってしまう。
「…アキラ?」
どうしたのか気になり、表情を窺いそっと名前を呼ぶ…
「…オレさ、一人になりたくねぇとか思ったけど、実際に入院とかしたら誰にも会いたくなくなるだろうな…」
「アキラ!?」
「いつの間にか、フッといなくなって気付いたら死んでたんだなって、そういう方がいいかも…」
しみじみ言う。
それを聞き、アキラの肩を抱いている腕に力を入れてしまう。
そんな事は嫌だ…心に、強く思うみずき。
「みずきも、オレが弱っていく姿、見るのはツライと思うんだよ。特にお前、オレが髪長くてキレイなのが好きみたいだから、余計にな」
確信したように言うアキラ。
「ツラくないと言ったら嘘になるが……生きているのに会えない方が、もっとツラいよ」
アキラの言った事を否定しながら…強くキモチを伝える。
「…わかんねーよ、今はそう言ってくれてるケド、本当に目に見えて悪くなっていく病気だから。患者の半分以上が自殺するほどだからな…」
「じ、自殺!?」
初めて聞いて驚くみずき。
アキラは平然と話を続ける。
「そ、皆、耐えられなかったんだろ。何も出来なくなる自分自身に、発作のつらさに、死んだ方が楽だって思ったんだな…解るケド」
「アキラ…」
淡々と語るアキラの様子が痛くて…名前を呼んでしまう。
アキラは窓の方を見つめ静かに話していたが急に、声に力を入れて…
「…オレは絶対最後まで生きてみせる!安楽死なんかすすめる親父にそれが最後の抵抗だ…でも、自分じゃどうにも出来ないかもな、点滴に少し薬加えるだけで人殺せる世の中だし、親が医者なら事実ぬりかえるのもカンタンだしな…」
「そんな…いくら何でも実の親子なんだろ?母親とか弟がさせないだろそんな事…」
みずきは信じられず言ってしまう。
「…弟もあれで親父と意見は同じだしな…今の母親はオレの本当の母親じゃないからな、なんとも思わないし、親子だなんて思ってないと思う…」
そう、当たり前のようにいう…
「アキラ…」
悲しいことを呟くアキラを抱きよせ名前を呼んでしまう。
「でも、オレは幸せな方だぜ、生まれた時からずっと相手にされない事があたり前だったからオレにとっては普通なんだよ、この環境が。みずきみたいに昔は幸せな家庭があってそれが崩壊していく方がつらいと思うな…」
本心なのかアキラは静かに語る…。
アキラは幸せだった時を知らない、だから、その頃を想って悲しむ事もない…。
そう言いたいのか…でもそれは決して幸せとは言わないだろう。
心でそう思うみずきだったが、言葉には出せなかった。
それはアキラが、今まで自分に言い聞かせて生きてきた理由だから、否定することなんか出来ない。
言葉がでない…。
「ふっ、そうだ、オレのこの髪。もう少しのびたらさ、人形にしてもらおうか?」
急に笑ってそんな事を言うアキラ。
みずきはさらに悲しくなり……
「しなくていい…そんなモノ」
そう答えてしまう。
「そっか?いい考えだと思うんだけどな、髪は何年経ってもなくならないから。オレの生きてたアカシになるだろ…」
アキラは軽く言いながら、みずきに寄りかかっていた身体を離す。
「どこへ…?」
離れると不安になりすぐ聞いてしまうみずき。
ベッドに手をかけ立ち上がろうとするアキラ。
「トイレ行こうと思ってな…」
一度ベッドに座りながらそう言う。
「手をかそうか?」
みずきも立ち上がりアキラに手を伸ばす。
「サンキュ…」
手をかりて立つ。
足を少し摩ってみずきを見て…
「よし、大丈夫。一人で行けるから待ってな」
そう少し笑い断る。
「しかし…」
「大丈夫!いつまでも座ってる訳にはいかないし、6時きたしな、じゃな!」
心配するみずきをよそに、アキラはさっさと部屋を出て行ってしまった。
一人残されるみずき。
少しボウ然としてしまったが…
アキラの集めたファイルが目に入りベッドに座って、それに目を通す。
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