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第30話
「3枚だけど、金のある奴には譲らねぇ!」
「ケチめ…」
「お前に譲るぐらいならルードにやった方がマシだぜっ!」
勢いで何気なく言ったヨシの言葉だが、トクンと心臓に響くアキラ。
「なんだよ!?」
何も言い返してこないアキラをみて調子が狂い聞いてしまう。
「ふっ、見かけたら誘ってやってくれよ、ルード」
伏し目がちに薄く笑い言葉を返す。
「アキラ…」
みずきは心配になり名を呼ぶが…。
「オレ、もう行くわ。レジのねーちゃんが恐いのなんのって…じゃな」
店員の女の子からじろじろ見られてはいるが…
言い訳にしてその場を離れようとする。
「アキラ!仕事、もう10分で終わる。一緒に帰ろう」
すっと止めてみずきは言う。
「あ、そう?んじゃ、公園で待ってるよ」
そう言い返して出ていくアキラ。
「なんだ?アイツ急に」
ヨシがぼそっと言う。
みずきは…
「あまり……」
「あ?何、みずき?」
「いや…」
言いかけたが、言うのをやめる。
アキラのいない場所で話すのは良くないから…
「…?なんで、お前ら一緒に帰るんだ?」
なんとなく疑問に思い聞いてみるヨシ。
「家が近いし、時間も合ったからだろう」
そう普通に答えるみずき。
「そうだけどよー、じゃ俺も一緒に帰っていいか?」
「お前は、方向が反対だろう?」
「いーじゃねぇか、俺を仲間外れにすんなよ!」
なんだか子供っぽい言い方のヨシに、みずきは首をかしげ…
「そんなつもりはないが…」
あいまいに答える。
「じゃ、いいだろっ!タダ券の話もまだだし、俺も公園で待ってるからな!」
「ヨシ!」
みずきの声も聞かず…
「早くこいよー」
そう言い残してアキラの後を追って出ていく。
「待てよ!」
「あ?ヨシ、なんだよ」
アキラの後ろ姿をみつけて呼び止めて、並んで歩きだす2人。
はたから見ると美男美女の似合いのカップルだ。
「俺も一緒に帰るから」
軽く言うヨシにアキラは…
「げぇー、なんでまた」
あからさまに嫌そうな顔をして嘆く。
「げぇとはなんだよ。こっちだっててめーと一緒になんか帰りたくねぇ、でもまだタダ券の話とかあるしな!」
ヨシも怒り口調で言う。
「あっそ!好きにすれば…」
アキラは、どうでもいいように言って公園のベンチにちょこんと座る。
ヨシは立ったまま、アキラを見て言葉にする。
「おまえさぁ、何でそんなに髪伸ばしてんだ?女装の趣味あんのか?」
「るっせー!そんなの、オレの勝手だろっ!それに女装なんかしてねーじゃん!」
アキラは怒りながら言い返す。
「てめー、自分のカッコ、見て言ってる?」
さらに、つっこむヨシ。
「でも、化粧もスカートもはいてねーぜ!それで女装って言えるのか!!」
ちょっとキレぎみになるアキラ。
「ンな、ムキにならねーでいいだろっ?バカかお前」
かなりストレートに馬鹿にするヨシヤス。
「ルっせー!ムキにさせてんのは、てめぇだろっ!」
フイとそっぽ向くアキラ。
ヨシも、フンとなる。
その瞬間、ポトっとアキラ帽子に、一度あたり、そして横髪へ絡むように、ガの幼虫か何かの虫が一匹降ってきた。
「う…わぁッ!チョッ何!こいつッ!!」
びっくりして、かぶっていた帽子をサッと取り、2、3回はらうが、髪に絡みついて取れない。
「ゲぇっ!とれねぇ!」
急に、慌てだしたアキラに少し驚いていたヨシだが、見ていると可笑しくなってきて、笑い出す。
「わ、笑ってねーで、と、取ってくれよ!コレっ」
「ふっはははっ!バッカでー、虫なんかが恐えーの?だから困るね、都会っ子は」
「悪かったな!都会っ子でっ早く取れよ!!」
顔のすぐ横で動いている虫の恐怖はハンパじゃない、なんとか取ろうと必死になるが、虫は絡まるばかり。
「それが取ってもらう者への態度かぁ?ほっておこうかなぁ、けっこう似合ってるゼ、その髪飾り」
「う゛悪ィ…だから、早く取って、キモチ悪ィ」
だいぶ弱ってきたアキラ…
仕方なくヨシはアキラの髪を分けて虫を取ってやる。
「ホラ、取れたぞ!」
「こっちにやるなって!木に戻してやれよっ」
木の方を指さしながら、ヨシから離れるアキラ。
「礼ぐらい言え!ホレっ」
虫をアキラへ投げる格好をする。
「わっ!やめろって!」
「礼言えーっ」
いつもの嫌がらせモードに突入するヨシ。
そこへ…
「何をしているんだ?」
みずきがやってきて、あきれながら言う。
「あ、助かったー!もォ、こいつすっげーハラ立つ!!」
みずきの後ろへ隠れながら、溜息まじりに言う。
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