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第36話

「オレは医者になんかならないからいいんだよ」 治療に専念しながら無表情で答えるアキラ。 「医者にならねぇって、長男だろ?いいわけねーだろーが!ッイテテ!」 ヨシは消毒液が多少しみて顔をしかめる。 「イイんだよ、病院は弟が継ぐんだから、オレにはカンケーない」 いろいろ聞いてくるヨシを少し煩気に答える。 「関係ねぇって、無責任なんじゃねーの?医者にならねぇで家だけ自由に使ってんのかよ!」 ヨシの言葉に息をついて… 「そうだな…」 事実とは違うが説明するのが面倒で、うるさげに答えるアキラ。 それと同時に治療も終わる。 傷はガーゼ保護し、軽く包帯を巻いてある。 「あ、サンキュ」 一応、礼を言うヨシ。 「別に、処置できるからしただけだし、服、破れたまま帰るのか?オレのTシャツ貸してやろうか?」 平然と言う。 ヨシはからかい口調で… 「入るのかぁ?お前のが、俺に?」 「なら帰れ!」 ヨシの言葉にムカっとなって冷たく追いかえす。 「うそ嘘、冗談だって、貸してくれよ!」 笑いながら切り返すヨシ。 アキラは、不機嫌ながらも服を持ってきてやる。 「オレ大きめの服好きだから入るだろ」 そう付け足して渡している。 「ども、」 さっそく着てみる。 大きくはないが、入ったのでアキラのTシャツを着たヨシ。 「もう用はないだろ、帰れ帰れ」 動物でも追い払うようにシッシッと手ではらうアキラ。 それを見てムッとなり、ヨシはアキラの腕をとり、いきなり唇を奪う。 「!?」 前ぶれがなかっただけに驚く。 すぐに強引なそれから逃れて… 「っチョ、ット!何すんだよッボケ!」 かなり怒りマークを飛ばしながらヨシに向かって怒鳴る。 「せっかくだから遊ぼうゼ」 などと言い出す。 「は!冗談、人んちで、さかってんじゃねぇ!放せよ!」 強気で抵抗する。 「ヤだね、お前とは撮影以来か…」 勝手に思い出しているヨシ。 どうやら本気らしい。 「バカか!あんたこそ誰でもイイのか相手はっ!」 ヨシに力でこられては逃げる術はない、やばい状況になんとか対抗しようと考えるアキラ。 「今、俺フリーだから誰でもいいって言やー、誰でもいいかな。気持ちよければイイんだよ、お前もそうだろ?」 やり方も強引なら、言い分もかなり強引なヨシ。 「あのなぁ!オレはあんたの性欲解消に付き合う気なんかねぇんだよッ放せっ」 アキラの言い分など無視のヨシ。 アキラを床へと押し倒し、口づけする… 同時に肌へ触れていく。 「んっ、チョッ!マジやめろッ!みずきに言うぞッ!」 アキラが言ったその言葉にピタっと動きが止まる。 「……」 二人の間に一瞬、静寂が流れヨシは、アキラの上から無言で退ける。 「ヨシ?」 アキラの呼びかけに… 「てめぇ、みずきと別れるまでぜってー許さねぇ!みずきを騙してるんだ、許さねぇからなッ!」 ヨシはアキラにキツく怒鳴って、走って出ていってしまった… 「……」 危機は去ったものの新しい問題浮上のような、重い気持ちがアキラの心を支配しているのだった。 《瞬きの中で》終

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