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第40話《願いの時》

天気の良い朝。 みずきはアキラの家の裏入口の前にいた。 今日はみずきの仕事が休みで、アキラも学校が休みと聞いていたので、会いに来たのだ。 アキラの家のインターホンを3回ほど押すが、何の返答もない。 (朝から散歩にでも行っているのだろうか…?) そう思っていたら、急に裏の戸が開いて… 「はい、どなたですか?」 茶色い髪の感じのいい、かわいい顔で問ってくる。 アキラの弟、コウジだ。 「あの、アキラはいないんですか?」 つい敬語になってしまうみずき。 「アキ兄の知りあいかな?悪いけど、アキ兄、ちょっと寝込んでるみたいだから…」 「え!?」 その言葉に驚く。 「もしかして、スズカミズキさんかな?」 軽く聞いてくるコウジ。 「あ、あぁ、そうだが、一体…」 みずきはアキラの様態の方が気になってしまう。 (寝込んでいる?アキラが…?) 「そっか、どうぞ、その人なら入れていいって前に言ってたから、アキ兄」 そう言うとみずきと交代に出ようとするコウジ。 「どこか行くのか?」 気になり聞いてみる。 「え?あぁ、寮に帰るだけ、ちょっと参考書取りに来ただけだから、アキ兄のこと、よろしくお願いします」 そう笑顔で伝え出て行ってしまった。 みずきは、広い庭を通って玄関までたどりつく。 二匹の犬が、もうすっかり馴れて甘えてくるが、アキラの事が心配で構っている余裕がない。 (また、発作が起こったのだろうか…) アキラからもらったカードキーで玄関を開け室内に入る。 いつもの静かな広い家。 熱を感知して自動的に明りがつく廊下。 みずきは、エレベーターを待つ時間も惜しくて、自分の足で3階のアキラがいる部屋へかけ上がる。 アキラの部屋の前まで来て止まるみずき、心臓の鼓動が耳に響く…。 トントン、と軽くドアをノックするが、返事は何も返ってこない。 「アキラ、入るぞ…」 静かにドアを開けるみずき。 「!!?」 そこには、ベッドに横むきにうずくまり… 口に家庭用酸素マスクをして、死んだように細い息をするアキラの姿があった… ゾクッと身体を震わせるみずき。 青白い顔に紫色をした唇… 「ア…キラ、ッ」 ふ、と声にして呼んでしまうみずきだが、すぐ口を抑える。 起こしてしまうのはどうかと思ったから… 枕元に白い紙が見え、そっと見てしまう。 弟からだ。 [アキ兄へ!ちゃんとご飯食べなきゃダメ、おかゆでも、ぞーすいでも、何でもいいから、栄養剤だけにたよってたら痩せる一方だぞ!それと、お酒は飲むなって言ってるのに、ワガママ!分かるよね?アキ兄もダメなのは、自分があとでつらいだけなんだから!わかった?僕はもう寮に戻るけど、しっかりね!アキ兄。昂治より] ……それを読んで、困惑するみずき。 アキラが食べ物を食べていない? お酒を飲んだ? なぜ? (おかゆ…ぞーすい、作ってみようか…) 今まで料理に手をつけた事はなかったが、今、なぜか作ってやりたい気分になっているみずき。 なにか食べさせないと。 そう危機感にも似た思いで、みずきは静かに立ち上がって、アキラを起こさないように、そっと部屋から出る。 2階の書庫から料理関係の本を探し出し、雑炊の作り方を見ながら作りはじめる。 慣れない手つきで、でも、必死に作っているみずき。 ようやく煮込みに入りカタチはできてくる。 …味も、たぶんまぁまぁ。 火を止めて、アキラの様子を見にいくみずき。 1時間程たっても目を覚まさないアキラ。 どうしても起こせそうにないみずき、スッとベッドの横に座って、静かにアキラの手をやさしく握る。 (…熱い。ひどい熱だ…) また、発作を起こしたんだな。 酒、飲むなと言われているのに……どうして…。 「…ウ、ンー…」 ふと、アキラがみずきの手をやわらかく握り返してくる。 それだけでドキドキしてしまうみずき。 アキラはそのまま動かなくなる。 はじめは紫色をしていた唇だが、だいぶあかみが戻ってきている。 こうしてアキラに触れているだけで心が温かくなる愛しい人。 俺の気持ちを受けとめてくれた温かい心。 でも、こんなにも不安がつのっていく… もし、このまま目を覚まさなかったら… 俺をおいていってしまったら…いく、どこへ? 恐い… 考えるな… 心がそう叫ぶ。 もう片方の手でアキラの髪をやさしくすくい、頬に触れる。 触れて…両手からアキラの熱が伝わる。 急に…、ビクッと握っているアキラの手が、反応する。 少し驚いて、頬に当てていた手をひくみずき。 声も出さずに静かに瞳を開けたアキラを見て、心臓がドクンと音をたてる。 「あ…れ、みずき?」 2、3回まばたきをしながぽつり。

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