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第50話

「分かりました、そちらへ向かえるよう連絡してみます」 隊員はそう答えてアキラの処置に戻る。 運転席では、無線かなにかのやりとりをしている。 病院にはすぐ着いた。 患者を迎えに出ていた、健次は、アキラの姿を見て、ハッと驚いて、言葉を無くす。 「…あ、アキラ」 みずきは、健次に駆け寄り。 「先生!アキラを頼みます!」 願いを託すように言葉をかける。 「わかりました。大丈夫ですよ」 健次はそっと微笑んでそれだけみずきに言い。 早足で処置室へ向かっていった。 待合室でただまっているだけの二人。 会話はない。 マサキは話したくても、みずきの雰囲気が恐くて話かけられない。 病院へついて約1時間弱… カチャっと処置室の扉が開く。 二人とも、そちらへ目をやる。 健次先生だ。 「では、少し状態の説明をします。こちらへどうぞ」 やさしく、いつもどおりに呼ぶ健次先生。 診察室のような場所へ招き入れ、健次は二人に話はじめる。 「ひとまず、命の危険は脱しました」 少し微笑みながらいう健次。 「よかったぁ…」 それを聞いてマサキはそう口に出し、みずきもほっと安心する。 続けて健次は… 「しかし、アキラの意識は、以然戻りません。CTなどの検査をした結果、頭部は外出血にくらべ、内出血は少ないので、他に異常がなければ、かならず意識は戻りますよ。さ、もう病室に入りましたから、様子を見てあげてください」 にっこり、微笑み二人を誘導する健次。 ……なぜ、そんなに落ち着いていられるんだろう。 可愛がっていた甥が、突然、運ばれ意識不明のままだというのに… 医者だから? …助かると確信できているからか? みずきは、健次の後をついていきながらフッと頭で思うが… そんなコトより、今はアキラが気になる。 言われるまま病室に入り、ひとつのベッドに目を向ける。 アキラは… 酸素マスクを口に付け…輸血用のクダと点滴を身体に通し、頭へは白い包帯と大き目のバンドで、キズ口を左目ごと覆っている。 身体に付けられた計測機器が嫌な音を奏でている。 かすかに、血のついた髪が痛々しく、血の気がない青白い顔だ…。 不意に健次が… 「…アキラ、いつかは、こんな日がくると思っていましたが、やはりあの家に一人でおいておくのは危険すぎます。この怪我でさえ、発見があと、3時間遅かったらと思うと、恐くなります。鈴鹿さんが見つけてくださったのですか?」 静かに語りかけるように問ってくる。 「はい…二人で。キーを貰っていたので…」 みずきはすぐさま答える。 「よかったです。この子は、何でも一人でやってしまう所があるのですが、一人では出来ない事もあります。これからも、負担にならなければ…アキラを見放さないでやってくださいね」 やさしく、頼むように二人に言う健次。 「わかっています」 しっかり頷きながら言うみずき。 絶対に見放さない… 大切なアキラのことを… 「では、私はもう行きます。次の患者が到着する頃なので…医者の辛い所ですね、つきっきりになれないのは…そのかわり、二人も友人がいるのですから…失礼します」 健次は終始優しい笑顔で話ながら一礼して出ていった。 「あの、みずきさん?先生ってアキラさんのこと知ってるんですね」 この病院を初めて訪れたマサキは知らないためそう問う。 「あぁ、アキラの叔父さんなんだ」 アキラの様子をみつつ、ポツリと答えるみずき。 「へー…あ、そうか、この病院も楠ってついてるもんな…」 マサキはひとりで納得している。 それを、ほっておいて、みずきは右手でアキラの頬に触れて、そっと名前を呼ぶ。 当然反応は返ってこない。 すっと手を放し、頭側にある椅子に座る。 いくら大丈夫と言われても、目を開けて話をしないと不安で、恐怖がつのる。 「アキラさん…なんで階段の方へ行ったんでしょうね。エレベータあるのに…」 「…さぁな」 マサキの投げかける言葉に、一応答えているみずき。 マサキはポツリと… 「はよ、気、ついたらええな…」 そう言葉を足す。 みずきも同じ思いで時が過ぎるのを待つ。 面会時間、少し過ぎまでいた二人。 マサキは、2日後にくると言って帰っていった。 みずきは、夜間コンビニの仕事があるのでそのまま出かけて行く。 そして仕事が終わり自宅で3時間ほど過ごして、またアキラの様子を見にやってくる。 まだ目を覚まさないアキラ。 それでも、そばにいるだけで少しは心が休まる。 そのうち、うとうとして眠りだしてしまうみずき。 カタッという音で、はっと目を覚ます… 「あ、起こしてしまいましたね、すみません」 健次が、アキラの様子をみながら点滴を換えているところだった。 アキラは、もう計測機器や酸素マスクは取られ、包帯と点滴だけだ。 自分が、居眠りしてしまった事を恥ずかしく思うみずき。 「すみません、今、何時ですか?」 謝りながら聞いてみる。 「えぇと、昼、1時過ぎですね」 「もうそんな時間…」 「どうかされたんですか?」 やさしく問う健次。

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