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第52話
……心の奥底で、ズキッと痛む…。
せっかく、愛してくれたかもしれないのに…。
想いを裏切る…?
でも、これ以上オレといてもみずきは幸せになれないんだ。
……それでいい。
心は決まった。
ベッドの上に寝たまま目をあけていたら、様子を見に来た看護師に声をかけられる。
そして、すぐ健次を呼びに行く看護師。
間もなくやってくる健次。
「あぁ、良かったです。アキラ、気がつきましたね。丸一日半眠っていたんですよ」
健次は、やさしく声をかける。
「…オレそんなに寝てたんだ。迷惑かけてスミマセン」
「いえ、いいんですよ。頭部に裂傷はありましたが処置して傷も浅く無事だったのですから…心配しましたけど、鈴鹿さんと正木さんが発見してこちらへ搬送してくださって、その鈴鹿さんも先ほどまでいらしてたんですよ」
いつもの笑顔で説明しながら話しかける健次。
「…鈴鹿?正木?誰それ?」
最初のウソをつく。
「え、アキラ?鈴鹿瑞さんですよ?」
表情を少し変える健次。
「すずかみずき?知らねー…」
「……。僕は解りますよね?」
「健次さんでしょ」
軽く答えるアキラ。
「はい、本当に鈴鹿さんがわかりませんか?」
「……誰だかさっぱり?」
首をかしげながらそう演技して答えるアキラ。
「……」
言葉を無くす健次。
かわりに、近くに居た看護師が…。
「先生、一時的な記憶の混乱か何かではないでしょうか…」
言葉をだす。
「この場合決めかねますが…アキラ、どうやら頭を打ったせいで記憶が飛んでいるようです」
「……」
「少し調べますから質問に答えてください」
「はい」
「じゃ、家族の名前言ってみてください」
静かに問う健次。
「戸籍上での父は満、義母はユカリ、弟はこうじ。あと犬のメアリーとリッツ」
「では、ルダーク君は?」
その問いに一瞬ドキッとしたけれど平静を装い…
「…ルダーク?オレは外人に知り合いはいねーよ、健次さん」
そう知らないふりをして答えるアキラ。
「……、では、クラスメイトの名前は?」
質問を続ける健次。
「えっと、安藤、石井、岡本、笠井、オレ、小林、坂井、坂本…」
出席番号順に呼ぶアキラ。
「あぁいいですよ、分かりました。では、アキラの友達を言ってみてください」
「ダチ?…オレ友達とかいねぇから言えないんですけど…」
困ったふうに言うアキラ。
「いない?そんな事はないですよ。僕は見た事がありますし、昨日も2人来られてましたよ?」
「そう言われても、いねーもんはいないよ」
少しイラっとしたように言うアキラ。
「…分かりました。一時的なものだと思いますが、きちんと調べておきますね。心配しないでくださいアキラ」
「しないよ…別に、調べなくていいよ」
健次に手間をかけさせて心苦しくなり…
そう伝えるが、健次は大丈夫と答え病室を後にした。
夜になり、いつも通り仕事を終えたみずきがやってくる…。
すかさず、健次に呼び止められるみずき。
「どうかしたんですか?」
何かあったのかと心配する。
「…アキラの意識が回復しました」
静かに伝える健次。
「本当ですか!良かった」
何も知らず喜ぶみずき…
「しかし…ある重要な事が」
それを見てやや心苦しくなりながらも伝えようとする健次…
「え…」
喜んだのも、つかの間。
今度は何かとコトバを待つみずき。
「記憶喪失…」
ポツリと伝える。
「き、キオク??」
その言葉、すぐに理解することが出来ないみずき。
「すべてではありません、鈴鹿さんには言いにくいのですが…」
言葉を選び続ける健次。
「…友達、アキラに関わった友を、一人も思い出せない…鈴鹿さんの事も…」
静かに、信じられない事実を伝える。
「俺…の事を、忘れた?…そんな、バカな…」
驚き、言葉が続かない。
「本当なのです。私も専門外なので詳しくはわかりませんが、一時的なものと言う事も考えられますし…」
ショックを受けているみずきをフォローするように伝える健次。
「……」
それを聞いても言葉が出ない…
「今、会っても変わるか解りませんが、面会しますか…?」
やさしく聞く健次。
「…はい…」
そう答えたものの、病室へ近づくにつれて心臓が、ドクンと心臓が音をたてる。
心がざわめく…
自分のことを忘れたなんて嘘だ。
信じられない…
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