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第53話

「アキラ、入りますよ?」 ノックをして問う健次。 「はい、どーぞ」 いつものアキラの声…。 先生に促され、病室へ入るみずき。 アキラはその姿を瞳に捉らえる。 (…来たな、みずき。言わないと始まらないからな…) 心で思い実行に移す決意を固める。 「アキラ…」 みずきが言いかけた言葉を割って… 「健次さん、誰?こいつ…」 アキラのその言葉に息が止まる思いになるみずき。 (…ごめんな、みずき。今はつらくても、この先このままでいるより絶対いいから…) 「アキラ、この人が鈴鹿瑞さん、お前が仲よくしていた友達だよ?思い出さない?」 「知らねーよ、オレ友達なんかいねーんだって!見たこともねぇよ」 アキラは早口でそう言い切る。 「アキラ…」 困ったように健次が呟く。 不意にみずきが… 「…あ、アキラッ俺が分からないのか!?ヨシや、正木や…ルードは!?分かるだろッアキラ!!」 アキラの肩に手をやり、焦ってカッとなって問ってしまう。 (……!) おとなしいみずきが急に声を荒げたので驚いてしまうアキラ… 一瞬、言葉を返すのを忘れてしまう。 健次も驚くが… 「…っ!放せよッ!知らねぇつってんだろ!なんだよてめぇはッ帰れよッ!」 そう怒鳴り返す。 「アキラ、そんな言い方は良くないですよ」 健次が、諌めるように言葉を挟むが… アキラに拒絶され、みずきは呆然としてしまい… ゆっくり下がる。 次の言葉が出ない…。 「……、俺、帰ります」 やっとそれだけしぼり出すように言うみずき。 逃げるように走り去る。 健次が慌てて声を出す。 「あ、待ってください。アキラ、失礼します」 アキラに断って、病室を出たみずきを追って話しかける。 「すみません、アキラも少し混乱していて、いつもよりトガった話し方になっていて…記憶は戻ると思いますから嫌わないでやってください、やさしい子なので…」 健次の言葉に、ただ頷くだけで…そのまま病院を去るみずき。 そんな事、言われなくてもわかる。 分かり過ぎるほど…でも、オレの事を…皆の事を忘れた? 深い喪失感を抱いて自宅へと帰るみずきだった。 翌日、マサキも来て驚いていたが、あいかわらずの関西弁で、すぐ立ち直り、また最初から生まれや出会った時の事をマイペースに話して帰って行った。 その日はマサキしか来なかった。 (まぁ、あれだけ言えばみずきも来なくなるよな…) そうぽつりと思うアキラ。 ……その次の日。 だいぶ動けるようになったので、院内でも少し歩こうかと個室の戸を開く。 すぐ外に人影。 「っ!!」 (みずきっ) 思わず名を呼んでしまいそうになるアキラ。 そこにはみずきが立っていた… 「アキラ!」 話をするため、病室に入ろうか悩んでいたところ、急に出てきたアキラを見て、みずきも驚いている。 「な、なんだよテメー!こんな所で待ちぶせか?何考えてんだよ、本当にオレの知り合いか?」 すぐ頭を切り替えて怒鳴りつける。 「…知りあいじゃない」 ポツリと返すみずき。 「じゃなんだよ!」 (言えねぇよな…) キツくみずきを睨んだまま心で思う。 「……親友…だ」 みずきは、その冷たいアキラの瞳を辛く思いながらも、なんとか言葉をつなげる… 親しい仲だったことを… 本当のことは言えないけれど… 「…親友?バカじゃねーの、てめぇみたいな暗い奴となんでオレが親友なんかになれるんだよ!思い違いもいいトコだぜ…どけよ!」 みずきに諦めさせるため、わざとキツイ言葉を使うアキラ。 触れもせず、避けるように通り過ぎていく。 ……たまらなく悔しく、悲しくなるみずき。 二日前に触れた右手が熱くなる…。 今では触れる事さえ出来ないもどかしさ。 自分でもどうしていいのか分からない。 ……5日目の昼。 マサキがまた、自分の描いた絵本を持ってやって来た。 アキラは知らない振りをして楽しむ。 (マサキみたいに、普通の友達みたいになら戻っていいかもな…) 病室の外から聞いているみずき。 楽しそうなアキラの笑い声… アキラの笑顔、見たくても俺が入っていけば消えてしまう。 なぜ正木は…正木の話の上手さに嫉妬してしまう。 (…くやしい…) 「…鈴鹿さん、入らないんですか?」 気遣って声をかける健次。 「……」 無言で首を横に振るみずき。 「話してみたらどうですか?正木さんのように、出会った時の事とか…」 その言葉にまた頭を横に振る。

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