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第54話

(……言えるわけがない。出会いはBOUSの撮影で本当は親友の線を越えていると…そんなこと言えないじゃないか…) すっとその場から逃げるように帰るみずき。 引き止める健次の言葉も耳に入らない。 どうすれば…、どうしたいんだ! 俺はッ… 完全にアキラに嫌われたこの状況… 話しもできない、触れられない… 今よりもっと嫌われて軽蔑されても告白するか? 出来ない、俺には… そんなコト… ……6日目の朝。 みずきは健次に言った。 記憶が戻ったら連絡をくださいと… それまではアキラに会わない。 そう心に強く決めた事… ……しかし。 どうしても気になってしまい、その後も病院の外まで足を運んでしまうみずき。 ちょうどベランタに出ていたアキラ、その様子を上から隠れるようにみている。 30分ほど院の裏の壁にもたれて、タバコを吸っていたが、そのうち、静かに帰っていくみずき。 ……タバコ吸うとこ久しぶりに見たな、あいつオレに気ィつかって吸ってなかったし… 顔色悪かったな、ちゃんと寝てんだろーか… ふっ何言ってんだか、せっかくうまくいこうとしてんのに、オレの方がみずき心配してたんじゃ、シャレになんねーよな… ふぅと溜息のアキラ。 (…でも、いつになっても好きになってくれた奴が、離れていくのは悲しいよな…) そう思い部屋に入ろうとするアキラ。 不意にケホ コホッと咳が出るグスッと鼻もなる。 「やべー、カゼひいちまいそー、病院来てカゼひいてたんじゃ健次さんに何て言えばー…」 そう言いながら病室に戻ろうと、ドアに手をかけた途端、頭の後ろを刺すような痛みが急にアキラを襲う。 「ッ…!」 すぐ、その場にうずくまる、今までにない頭の痛みだ…。 頭が割れるように激しい痛みが続く…。 「だいじょうぶ?おねぇちゃん…」 傍にいた小さな女の子が聞いてくる。 それにも答えられないアキラ。 耐えられないくらいの激しい痛みで、吐き気も混じってくる。 「先生よんでくるから、まっててね」 よしよしとアキラを撫でて走っていく女の子。 呼ばれてすぐやってくる健次。 「アキラ!どこが痛む?」 アキラを病室のベッドに寝させ声をかける健次。 「…ッ、後、頭部っ…ぃッ!」 しゃべる事さえままならず、呻くように答えるアキラ。 「しっかりしてください、アキラ…」 声をかけ、薬を注射しながらアキラの様子を見る健次… 「痛ッ…けんじさ…っ!」 「もう少しの辛抱です。すぐ薬が効いてきますから、力を抜いて…大丈夫…」 なんとか落ちつかせようとする健次。 アキラが暴れる事で持病の発作を誘発させないように、健次は静かに声をかける。 じっとしていようとしても手足が勝手に動いて、痛みから逃げようとしてしまう。 油汗をかき、息遣いも苦し気なアキラ。 そのうち、薬が効いてきて暴れなくてもすむ痛みになる。 いつの間にか健次の手を握ってしまっているアキラ。 頼れる人…人間だから頼ってしまう。 あまりにも稀薄な自分がこの世から消えてしまわぬように…。 誰かの手を――。 健次も手を放すことはせず、うつろなアキラの状態を測定している。 実に医者らしく… 不意に廊下の方が騒がしくなるのが二人にもわかった。 健次はすぐに急患だと解ったが、自分の他にも待機している医師はいるので、測定を続けていたが… しかし、慌ただしく少し遠慮ぎみに、一人の看護師が呼びかけてくる。 「院長…、交通外傷、子供3人、重体です。お願いします」 その声に健次よりも早く反応したアキラ。 放したくない手を緩め手を放す…。 そして瞳を静かに閉じる…。 「アキラ…すみません」 ずっと付いていてはやれない… どうにもできないもどかしさを抱くが、頭はすでに急患の方へまわす。 そばにいた看護師も出て行ってアキラ一人だけになった。 たえず後ろ頭をナイフで刺されているような痛み、それを隠すように身体に浸透する薬の作用。 少量の麻薬が手を痺れさせフユウ感を漂わせる。 感覚はマヒしているが意識ははっきりしている…。 ……今まで、ひとりで何でもやってきたつもり… でも、どこかで必ず人を頼ってしまう。 それがどれだけ恐ろしいか、信頼する事がどれほどイタいか… よく分かっているハズなのに、差し伸べられる手にはすがってしまう自分。 弱いから…やさしくされると甘えてしまう。 ……強くなりたい。 体力的に無理ならば、せめて心だけでも…。 ひとりで乗り越えていけるだけの強い心…。 頭の痛みに勝つように強く思い、自分の腕を掴むアキラ。 自分がここにいるかぎり自分の事は自分で考えられる。 自分の思うように生きる。 そのまましばらく薬で眠りについた。 ――少し空白の時が過ぎて… 自分自身を持っていた手に他者の温かさが感じられ、スッと目を開けるアキラ。 「!!…健次さん!」 いつの間にか、また健次の手を握ってしまっていた。 アキラは慌てて手を放す。

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