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第55話
やさしく笑う健次。
「目が覚めましたか?半日ほど眠っていましたよ、大丈夫ですか?アキラ…」
「は、い。…えっと、さっきの交通事故の子は?」
頭の端に残っていた事を聞いてみる。
「はい、大丈夫ですよ。三人とも助かりました。まだICUで治療していますが、命に別状はありませんよ」
やさしく伝える健次。
「それは良かった…」
「そうですね」
「あの、健次さん」
「はい」
「別に、オレの事…気にかけなくてもいいから、オレなんかより健次さん待ってる患者いっぱいいるでしょ?」
「それでも僕はアキラを看ていたいんですよ、医師だって人間です、少しくらいのワガママなら許してもらえるでしょう」
いつもの優しい笑顔で伝える健次。
「まぁ、アキラの目ざわりになるなら退散しますけどね」
続けてアキラへ伝える。
「そんなコトないけど、でも病院の迷惑にならない?」
少し心配して聞く。
「大丈夫ですよ。この病院は私一人で成りたっている訳ではありませんから、ちゃんと他にも医師がいますしね」
にこっと笑って、気にしないでください、と安心させる。
「…なら、いいんだけど。…さっきの頭痛は神経萎縮性のものかな?」
不意に言われてドキッとする健次。
「そうとはかぎりません、今回の場合は、頭を強く打ってから間もないですし、薬物になんらかの拒否反応が出たんだと思いますよ」
「…そっか」
「それにしてもよく知っていますね、希な病状まで…」
「まぁ、自分の事だから…違うのなら寿命がまだ予測できないな…」
脳の神経萎縮が起こると、1~5段階で5が末期だとすると、ちょうど4くらいの症状、長くて2年だから…。
「健次さん、オレ、親父の病院にこのまま送られる?」
また質問するアキラ。
「え?」
「親父に言われてるんでしょ、検査結果が悪かったらこっちにまわせって…」
父親は脳神経外科医だ、オレが意識不明にでもなれば稀な脳神経系の病気を持つこの身体を検体に使う気でいるんだ、それくらいしか使い道がないから…
「…言われてます。が、私はアキラがどんな状態になっても兄のところへ送るつもりはありませんから安心してくださいね」
「…そう、じゃ、いつまでここに居ていい?」
短く頷きながら聞く…
「いつまででもどうぞ、ここはアキラの家みたいなものです。居たいだけいてください」
「そっか、ありがとう、健次さん」
にこっと健次に笑いかけるアキラ。
「いえいえ」
それに優しく答える健次。
「健次さんは、オレが死んだら悲しんでくれるよね…」
不意についでのように話し出すアキラ。
「…アキラ、あたり前です。何を言っているのですか、怒りますよ」
「聞いてみただけ…健次さん、オレがどうして友達作らなかったか教えてあげよーか」
「アキラ…」
「一人の方が楽だったのもあるけど、ダチ作るとオレ病気で死ぬかもしれないじゃん、悲しまれるの嫌なんだよね…」
「…アキラ」
「オレの死で悲しむのは一人だけでいいから、だから健次さんは本気で悲しんで欲しいんだよね…」
一人いれば十分…
「ひとりだけ…そんな、どうしてそう思うんですか、アキラ、身内に不幸があるなら皆悲しみますよ」
「そうかな…でも、一番世話になってるから、健次さんには…だから…」
遺言のように言葉を続けるアキラを見て健次は…
「やめましょう、アキラ。僕は死の後の事を話たくありません」
首を振り、アキラを諌める。
「そ、だよな…ごめんなさい」
素直に謝るアキラ。
(みんな逃げる…けんじさんもみずきも…なぜ?ひとはみんないつかは死ぬのに…それが早いか遅いかの違いなだけなのに…)
「いえ、悪いのは私なんです。本当はずっとアキラに辛い思いをさせてきました…」
健次は真剣に話だす。
「…アキラを助けたあの時から、それでも私はあの時の判断が間違っていたとは思いません、病気を持っていたとしてもアキラは必死に生きようとしていました。その可能性を否定する事などできませんでした、それに私が生きていてほしいと願ったからです。それは今も変わりません」
しっかり瞳を見つめ話す健次。
「…だからアキラの口から死と言う言葉を聞くのは胸が痛みます…。辛い環境を作ってしまったのは私にも責任がありますが、生きる事だけは諦めないでください…」
とても必死に言う健次を見てアキラは…。
「大丈夫だよ、オレまだ生きる事あきらめてねーし、健次さんを恨んだ事もないよ、この病気にはハラ立つコトもあるけど、これも自分が持って生まれたものなんだから他の誰のせいでもないし、むしろ生かしてくれた健次さんは命の恩人だからな…」
健次さんが助けてくれたから、今生きていられる。
「オレ話し方が悪いから健次さんに心配させたんだな、すみません、でもこの性格、もーなおりそうもないから、勘弁してくださいね」
そう笑いながら伝えるアキラ。
「アキラ…、本当にアキラはいい子に育ってくれていて嬉しいです」
「ううん…でも、いい子って小さい子供じゃあるまいし…」
クスクスと笑う。
「そうですね、でも私にとっては、いつまでたってもかわいい子供ですよ…」
やさしく言う健次。
「そーかなぁ?」
笑ったまま嬉しく思う。
その逆のコトも思ってしまうが…
健次さんになら甘えてもいいよな…
でも迷惑かからないように、甘える?
…ふつーに甘えるってどうやるんだ?
オレの甘えはワガママとイコールだからな…絶対メーワクかかるじゃん…。
……みずきなら、甘えられたよな…あいつは、オレの言うコト何でも聞いてくれたし…
それって、メシツカイとかそれっぽかったよな…友達でも恋人でもねぇよ…。
そんなことをひとり思ってしまうアキラ…
その後、少し健次と話してまた病室に一人になる。
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