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第56話

その日もなんとなく終わって、それから数日が経ち、みずきとまともに話さなくなって一週間以上がたった。 (ちょっとキツかったかな…あの言い方、自分に自信なくしてなきゃいいけど…) ふっと考えてしまう。 (…なに言ってんだか…) まるで、みずきが来ない事を根に持っているような自分に溜息をつく… ……人それぞれ違うんだ、いつまでもルードを想っているオレとは違う。 これでいいはずなのに、恨んでしまう自己中な自分…。 ゛愛してる。お前のすべてが好き…゛ みずきのコトバが頭によぎる。 裏切られた感覚… 信じてなかったハズが、いつの間にかオレが、信じてしまってたってコト…。 こんな自分のことを愛してくれるひとなんか…いるわけないのに…。 バカだなぁ… 考えると苦しくなる。 (…ルード、会いたい…会いたいよ) どんなにキツいこと言われても…そのひとの顔をみて、ルードの心に触れられたら… そのまま、アキラは枕へ頭を埋める。 瞳から熱い涙が流れてくる。 (…オレの心も身体と同じように弱まっていくんだろうか…) 身体の痛みは薬で治る。 ……でも、心のキズは…すぐ効く薬がないから辛いんだ。 それをどう乗りきるか… 生きぬくか… ひとりじゃやっぱ、つらい…か…。 そこへ… トントンと戸がなり、間もなく聞き覚えのある声が響く。 「おーい、入るぞーっ」 それと同時にドアが開く…。 (この声…ヨシ!…寝たフリしとこ…) アキラはそのまま寝たフリを続ける。 (こいつ相手してると疲れるだけだ…頭痛もするし) 「なんだ寝てんのか?おーい!おーい!マヌケ、起きろよっ!」 ヨシはマイペースに近づきながら大声で呼んでいる。 「ったく、借りた服返しに行きゃーいねーし、手間かけさせんなっての!」 かなり前に借りたアキラの服を持って歩きながら続けて言うヨシ。 「最近みずき冷てーし、ようやく居場所聞き出したら階段から落ちて記憶喪失になる大マヌケがいるしよー!どーなってんだか!」 ドカッとベッドに座りながらブツブツ大声で話しだす。 あまりの言いぐさに、怒りマークのアキラ。 「うるさいっ!なんだよテメーはっ!急に入って来てブツクサ言いやがって!」 思わず言い返す。 「なーんだ、起きてんじゃねーか」 「そんなでけー声で言ってりゃイヤでも起きるわ!」 ムカッとなりながら言い返すアキラ。 「そーか?これが俺のフツー声だぜー?」 しれっと言うヨシ。 「それがでかいってんだよ!ったく、お前なんか知らないんだから入ってくんなよっ帰れ!」 一応、皆に同じ事を言うアキラ。 「……オメー本当に忘れてんのか?」 じとーっと疑うように顔をみながら言うヨシ。 少しドキっとするが、顔を背け無視すると… バコッと横頭を、持っていた袋で叩いてくるヨシ。 「ッいってーな!何すんだッ!この怪我してる頭にっ信じらんね!」 バッと睨んで言うアキラ。 柔らかい袋だったのでそんなに痛くはなかったが… 「ショック療法で治るかと思ってなー、ちゃんと怪我してない方殴っただろーが…」 またしれっとそんなことを言う… 「そう言う問題かっ!」 その態度に腹が立ち怒ってしまうアキラ。 「態度悪ィのは変わらねーなぁ…」 首をかしげながら呆れたように言うヨシヤス。 「てめーの言えるコトかよ!」 ムカつくアキラを無視して、ヨシは… 「ホイ!服返すぜ!」 「あぁ…」 不意に服をふわっと投げて、そのままアキラの頭に服がかかる…。 「あのなぁ、フツーに…」 渡せと文句を言おうと服を取った瞬間、冷たい感触に唇を覆われるアキラ…。 「ッ!?」 両腕を掴まれ、そのまま病院のベッドに押し倒される。 アキラはヨシのその動きに、まったく歯が立たない。 (何!?なんだっ、ヨシの奴っくッ馬鹿力めッ!) 「んっ…なに考えてんだッ、やめろっ!」 ヨシのキスから逃れ、拒否のコトバを言うが、しゃべった事で開いた口にヨシの熱い舌が割込んでくる。 一瞬、ヨシの優しい口づけにのまれそうになるアキラ…。 (ッ!やっぱ、おかしい…今日のこいつ、それよりもヤバイぞ、この状況っ…ここは病院…もし、健次さんにでも見られたら…) 健次さんに会わす顔がない…! 焦りと不安がよぎるアキラだが… ヨシは、かまわずアキラの服を引き上げながら、素肌へ触れ、胸の突起へと指を這わすヨシ。 「ァ…ちょ、バカやめろッヨシっ!!」 思わず名前を呼んでしまうアキラ。 それを聞いて、ピタッと動きをとめるヨシヤス。 「…俺、お前に名前教えたっけ…」 そして試すように言葉を投げる。 「あ…っ」 やばッ…ハメられた!? ドクンと心臓が鳴り、言い訳を考える。 その直後にすっと、病室のドアが開く。 アキラは、さらにドキッとする。 健次さんか!? すぐにそちらを見るアキラ。

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