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第58話

みずきは… 「待っている…」 もう一度、静かに真剣に言う。 「勝手にしろ!オレは行かねーっ」 フイっと顔を背け言い切るアキラ。 「……」 みずきは、向こうをむいたままのアキラをしばらく見つめ、そして、そのまま帰っていく…。 「……」 (大事な話…ねぇ…) そう少しみずきのことを心で思うが…、今の話を忘れようとする。 俯いて病室に向かい歩いていると、急に前から声。 「オマエさ…いつまで続けんの?そのヘタな演技…」 「ッ!」 (ヨシ!?) 「俺、お前の考えなんかお見通しなんだよ!卑怯者がっ」 怒りながら、ヨシはアキラに言う。 「なっ、何言ってんだ…!」 シラをきろうとするアキラだが、ヨシは… 「バカじゃねぇの、そうやって逃げようったってムダだぜ、テメェが記憶喪失のフリしてるのは分かってんだ!」 大声でそう言ってくる。 「っ、分かったッ、静かにしろ!」 ヨシの口を抑え誰もいない物品室へと引き込むアキラ。 「へー、そんなにバレちゃマズいわけ?」 「…そーだよ、オマエの言う通りオレは皆にウソついてる。でも、それはヤツの為になると思ってやった事だ、別にてめーには関係ねぇだろ!」 ヨシに言い聞かすアキラ。 「ヤツ?みずきの事か?ざけんなよ!何が為になるだよ、キレイな言葉にしたって、テメーはみずきがジャマになっただけだろーがッ!!」 「…違う!」 「一時はみずきの優しさを利用して必要なくなったら捨てちまう、それも自分は悪くないように、記憶喪失のふりなんかしやがって!はっきりフッてやればいいだろ、その方がまだいい、当たりどころがあるだろッ、今のみずきはそれさえ出来ねぇんだ!自分がどれだけヒドイ事してんのか分かってんのか!!」 バンっとアキラを物品室の壁に抑え、頭の上から怒鳴りつけるヨシ。 背中を打ちつけ、痛みがはしるアキラ。 「ぅッ…うるせーなっ!てめーに何が分かるんだよッ、えらそうに口を挟むんじゃねぇ!」 キッと睨み返して負けじと言うアキラ。 「ンだと!…テメーは自分勝手にやってるかもしんねぇがなッこっちはテメーがユウを追いつめてるから、まともにユウと話も出来ねぇんだからな!!」 「話しゃイイだろ!てめーが話しに行かないから話せねーんだろッそれはオレの知ったことか!!」 怒るアキラだが、ヨシは急にトーンを落とし言う。 「…今の、ユウには話せねぇ…あいつは自分の事で手一杯なんだ」 静かに続けるヨシ… 「…そんな奴に、俺の大事な話聞いて欲しくねぇ…」 ほろっと、片目から涙が流れるヨシ。 「ヨシ…?」 驚いて見返すアキラ… 「…、くそッ!」 アキラに涙を見られ、ヨシはアキラに背を向け帰ろうとする。 「ヨシ、待てよ!どうしたんだ。一体。変だぞ…お前、タガがはずれた感じで、話せよ何があったんだ?」 つい気になって聞いてしまうアキラ。 「…うるせー!テメェには関係ねぇ…」 少しむっとしながら言うヨシ。 「あっそ、んじゃ、なんでもねぇんだな、ならみずきに頼らず自分でなんとかしろよッバカ!!」 「っ!なんでもない事ないッ一杯有すぎて…どうしようもないんだよッ!」 アキラの言い方にカッとなるヨシ。 アキラはヨシを見返して… 「だから何が?」 ぶっきらぼうに言う。 「……」 ヨシはその質問に言い詰まる。 「…?」 アキラもあえてそれ以上問いつめない。 ヨシは、静かにアキラの横の壁へと寄りかかり、そして座り込む。 「…俺の…」 だいぶして、ヨシが口を開く…。 「俺の親父の病気が再発したんだ…一時は良くなってたのにっ3年以内に再発したら…治る可能性は20%以下だって…そんなの!絶望的じゃねぇか…」 必死に泣きそうな声でいうヨシヤス。 ひと呼吸おいてアキラは問う。 「…再発?何の病気だよ、癌か?」 「…そうだよッ!せっかく…仕事できるって喜んでたのに、俺…親父にいなくなられたら…本当に独りきりになっちまうんだ。嫌だよ、そんなの…どうしたらいいんだよ…!」 俯いて頭を抱えながら吐き出すように言うヨシ 「……ヨシ。…どこの病院にかかってるんだ?」 そんな様子を見て、アキラは少し考えてヨシに語りかける。 「え?あぁ、中央病院だけど…」 「あぁ、そこは脳神経系は優秀だけど、癌治療の成果は低いんだ…病院教えてやるよ。それだけでかなり違うから…」 アキラはそう、うずくまるヨシを見下ろしながら言ってみる。 「本当か!どこだよそれッ!!助かるのかっ!?」 バッと立ち上がってアキラに向かって目を輝かせるヨシ。 「そんなんオレに分かるかよ…でも技術的にも信頼出来るぜ、癌治療専門の時東病院てとこ、少し遠いけどな、今より倍はイイと思うぜ?」 「…ほ、本当に…?っサンキュ!オメーも役に立つことあんだな!!」 ヨシは嬉しさから、瞬時にアキラを抱きしめていた…。 小柄なアキラ、すっぽりヨシに抱きすくめられる。 「お、オイッ!放せっ、どー言う意味だよったく、話してみるもんだろ?」 「ははっそーだなっ」 アキラを放しながら嬉しそうに笑っているヨシ。

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