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第60話
「それは分かっています。私も転院させるつもりはありませんから、断りました…しかし、兄は本気らしく…自宅のセキュリティナンバーを変え、アキラの荷物もここへ預けたと言うのです」
白い紙には何やら会社名と電話番号が書いてある。
それを、健次から受け取りながら、アキラはクスッと鼻で笑う。
「…そ」
親父ンとこに転院しなきゃ、帰る家はないってコトか…。
ま、そのくらい親父ならするだろうな…。
でも、オレは絶対に、あの男の言いなりにはならない…。
「アキラ?私の家に来てもいいんですよ?」
アキラの様子をみて聞く健次。
「ううん、大丈夫。そこまで健次さんに迷惑かけられないから…家くらいなんとかなるよ、金ならあるし、しばらくは近場のホテルでも泊まるから」
笑いながらアキラは、健次に伝える。
「でも…」
まだ高校生のアキラを心配する健次だが…
「…平気、いつまでもコドモじゃないんだし。いい機会だよ。健次さん、オレを明日退院させて?」
ふっと真剣な顔になり健次に聞く。
「えっアキラ、そんな急な…」
当然驚く健次だが…アキラは本気らしく…
「もう退院出来るでしょ?オレ」
ここに長居するだけ、健次さんに親父や本院の圧力がかかる…
迷惑をかけてしまうから…
「記憶は?」
健次は気がかりなことを聞くが…
「ん?さっきの殴り合いみて思い出したよ、だから大丈夫」
そうやんわりかわすアキラ。
「そ、うですか…しかし、退院してどこへ?」
アキラの言葉に困惑する健次。
「そんなに遠くには行かないから、学校もあるし…、ちゃんと連絡するからさ、健次さん」
そう瞳を重ね、真剣に頼むアキラを見て…
健次は、しぶしぶ顔を縦にに振る。
「…わかりました。しかし、連絡は必ずくださいね」
「うん、ありがとう」
顔を和らげ礼を言うアキラ。
そして、健次も話を終えて、病室を出ていく。
「…ふぅ」
溜息をつくアキラ。
あとは…明日みずきに会って、別れを言うだけ。
はじめから、こうすれば良かったんだよな…
考え過ぎたんだ、オレ…
病室のベッドに寝転がり、ポツリと思うアキラだった。
そうして、一日はあっと言うまに過ぎ。
みずきとの約束の時間がくる。
夕方6時に公園のベンチ…
大事な話…
もうアキラは退院の準備をして荷物にまとめる。
といっても、さほど持って来ていたものもないので小さいリュックにまとまる。
それを肩にかけ、健次に挨拶して病院を後にするアキラ。
約束の時間。
約束の場所へと向かう。
公園に行ってみると、みずきの姿が見える。
ベンチにうつむいて座っていた。
そっと近づいて行くアキラ…。
ジャリッと足音がして顔を上げるみずき。
アキラの姿を瞳に捕らえる。
「ぁ、アキラ!来てくれたのか!?」
驚きながら声を出しアキラを見るみずき。
アキラは何も言わず立ち止まる。
「……」
みずきは立ち上がり。
「…俺は、お前に話したい事があるんだ…」
一瞬、言い詰まったみずきだが、意を決したように話だす。
「…俺たちの事を、聞いて欲しい…俺はお前にオレたちは親友だと言ったが、それは…違う。俺たちは、それ以上の関係だった…、恋人同士だったんだ」
まっすぐこちらを見て、迷いなく言い切るみずき。
(…よく、よく言えたよな…恐くねぇの?オレがメチャメチャけなすかもしれないのに…それだけ、オレが追いつめていたって事か…)
みずきの言葉を聞いて…心で驚きと、感心しながら…無言で考える。
みずきを傷つけるコトバを…
「アキラ…?」
顔色ひとつ変えないアキラを不思議に思うみずき。
思わず聞いてしまう。
「…ふ、くくっ、ぁはははッ!」
急に笑いだすアキラ。
「…!?」
驚くみずき…
「…知ってるよ、そんなこと、オマエはオレのコト愛してて、オレは、ルードが好き」
「思い出したのか!?」
みずきは喜ぶ心がかすめるが、アキラはそれを許さない。
すぐに言葉を割り込ませる。
「違うよ!はじめっから知ってたんだ。記憶喪失のフリしてただけだぜ、みずきを騙してたんだよ、オレはッ!」
「…なッ…!?」
驚愕で固まってしまうみずき…
「馬鹿だな、何真剣になってんだか」
そう言い笑ってみるアキラ。
嫌な奴になるなら、とことんなってやる…。
「……!?」
信じられないような顔のみずき…。
言葉は失われている。
アキラは続けて…
「なぁ、オレたち、もう終わりにしようぜ、オレてめーに飽きたんだ」
感情なく言うアキラ。
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