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第61話
「そんな!嘘だッ…アキラっ」
その言葉にやっと声を出す。
「ウザいんだよッ!恨むんなら、オレなんかにひっかかった自分を恨むんだな…!」
(オレを恨め…)
(そして、嫌いになれ…男なんていいモンじゃない、ヨシの言う通り目を覚ませ…)
「カードキー返せよ」
「…い、今は、ない…」
混乱の中…とっさの嘘。
「ま、別にいいけど…それじゃもう入れねーから…」
「なッ…!?」
「じゃぁな、もう二度と会いに来るな!」
手をヒラっと軽く振って歩き、みずきに背を向けるアキラ。
「あ、アキラ…待て、なぜ…?」
引き止めながら、なんとか言うみずきだが…
「触るなッ!もう、終わりなんだよッ!てめーとは、さようなら…ユウセンパイ」
みずきに冷たく言い放ち早足でその場を後にする。
みずきは氷ついたように動けない…。
アキラはそのまま病院の前を通り過ぎ、バス停まで歩いて行く…。
(…イタイ、胸が…なんでだろ)
ぽつりと思って空を、心が冷えきるまで眺め続けるアキラだった。
(さ…どこ行こうか、家には帰れないし…)
とりあえずバスに乗って繁華街に向かうアキラ。
……オレがルードにして欲しくねぇことしてやる。
いつかみずきの耳にも入るだろうし…
そうすればみずきだっていい加減分かるだろう…
もう嫌われてるかもしれねーけど…
そう心で呟いてしまうアキラ。
それからオレの事誰も知らない土地に行って自然に死にたい…。
繁華街の路地の端にポツンと座っているアキラ。
寄りかかり眠っている…
いや、正確には瞳を閉じている。
……みずきに、嫌いだってコト言えなかったな、大嫌いって…言えばトドメだったんだろーけど…。
……どうしても言えなかった。
理由は、ホントはみずきを嫌いじゃないからとか、可哀相とか、そんなんじゃない…。
オレは、あの時ルードに言われたコトバ、心底傷ついた言葉がそれだったから…言えなかった…。
アキラは独り、そんな事を思う。
もう夜遅くなり、それ系の店たちの客引きでまわりは賑やかだ。
「…おじさーん、オレを一万で買わねぇ?」
誘う感じで前を通った30、40代の男に声をかけるアキラ。
軽い感じで寄ってくる男。
「ほぉ…売春か?綺麗な顔してるねぇ」
「ありがと、おじさん、オレ男だけど悪ィようにはしないよ…」
この時間にこんなところをうろついている奴にロクなのはいない、それがターゲットだ。
「一万であそばねぇ?」
再び誘うアキラの言葉に首をかしげる男。
「ちょっと安過ぎないか?アヤシイな…」
「大丈夫だよ、その気があるならアソコ入ろ、ないんならバイバイ」
ラブホテルを指して言うアキラ。
「オイオイ、さっぱりしてるなぁ…気に入った、相手になろう。さ、行こう寒いだろ…」
アキラは手を引かれ、そして肩を寄せて歩きだす男。
(…嫌だな…)
みず知らずの他人、性目的だけのカンケー…
本当は…。
でも、これは自分への戒めでもあるから…
みずきをキズつけてしまった自分へ…
これくらいじゃ許されないだろうけど、何もせず流すことなんか出来そうにないから…
(…オレってマゾかも…)
そう思って笑ってしまうアキラ。
「どうしたんだい?」
アキラを見て聞いてくる男。
「ううん、思い出し笑い。全部おじさんのペースに合わせるから、分からない事あったら聞いて…あと、ヤってる時に嫌がっちゃうクセあるけど気にせずにね、イヤヨ、イヤヨもイイのうちってさ…」
「ははっ、おもしろいな、ますます気にいった。名前は?俺は中村時次」
「…オレ?オレはサクヤ…」
「さくやか…綺麗な名前だ。年はいくつ?」
慣れ慣れしく子供に話すように聞いている男。
「…18だよ」
「若いね、いけない子だ、悪い遊びを覚えたね。両親は悲しむよ?」
鼻で笑うように、アキラをいさめる。
「…ふっ。つまんない話はやめよう」
(悲しむか…。普通の親は、そうなんだろう…ケド)
クスっと笑い、さりげなく話題変換するアキラ。
そして数分前に会った二人は、そのまま、ホテルの中へ消えていく。
《偽りのキモチ》終
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