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第62話《揺れる心》
枯れ木が空しさを漂わせる12月のはじめ。
みずきは喪失感をひきずりながら日々を過ごしていた。
あれから数日。
アキラは、あの日以来俺の前から姿を消した…
家のキーは変えられ入ることすら出来ない。
いや、家に帰っている様子もない…
健次先生もアキラの行方は知らないという。
……あの日、公園でアキラが言った言葉が頭から離れない。
『お前に飽きた…』
思い出すだけでも涙が出そうになる。
(…アキラ)
アキラの事は、忘れた方がいいのか…
いや、忘れられるのか?俺に…。
仕事場に来ても気力なく仕事に身が入らない。
思い出すのはアキラと過ごした楽しい日々…
よくココへも来てくれていた。
みずきは、仕事をしながら思い出す。
戻って来て欲しい…嘘だと言って欲しい、でも…
日が経つうちに、叶わない願いだということを思い知って…。
「…くん、鈴鹿君!!」
「…っ」
急に呼ばれた感覚に驚くみずき。
勢いよく呼んだのはバイトの谷吉恵美だ。
「小計、数量…打ち間違えてるよ!」
レジを打つみずきに、小声で指摘する。
「あ、…すみません、もう一度打ち直します」
客に謝って打ち直すみずき。
自分でも驚くような単純なミスだ…。
「大丈夫ですか?代わりましょうか?」
客が去ってみずきに声をかけてくる谷吉。
「いや、大丈夫だから…谷吉さん、16時きたから上がっていいよ」
「…でも」
「大丈夫だから…」
さっきのミスを見て心配している谷吉。
みずきは、安心させるように頷き、自分にも言いきかす。
しっかりしなくてはと…
「…それじゃ、あと一時間がんばってください、お先です」
「はい、お疲れさま…」
みずきは、挨拶を返して仕事へ集中する。
控室に戻る谷吉恵美。
最近のみずきの様子、元気のない様子をとても心配しているのだ。
「鈴鹿君は…」
なぜ元気がないのか、落ち込んでいるのか…理由がなんとなく分かるから悔しい。
ポツリと呟き思う谷吉。
あんな軽そうな女が来るようになる、ずっと前から好きだったのに…
自分の方が鈴鹿君を大切に想っているのに…。
これ以上、あんなにツラそうな鈴鹿君の姿見たくない…
谷吉恵美は、強く心に決める。
「……」
みずきも仕事を終えて、17時のバイトに仕事を引き継ぎ、控え室へ入る。
「鈴鹿君!」
入った途端に声をかけられるみずき。
「えっ、谷吉さん?」
帰った筈の人物が居て少し驚くみずき。
「ごめんなさい、また待ちぶせみたいな事して…でも、最近の鈴鹿君つらそうで、ほっておけない…」
「…ごめん、谷吉さん。俺は…」
何度目かの断りの言葉…。
「わかってる!でもっ、鈴鹿君が落ち込んでるのは、最近店に来なくなったあの人のせいでしょ?」
「……」
図星で何も言えないでいるみずき。
谷吉は続けて…
「私と付き合おうよ?鈴鹿君…あの人と何があったかなんて私は知らない!でも、これ以上つらそうな鈴鹿君を見ていたくない…から。私はずっと鈴鹿君だけを見てた、お願いだから…」
必死に頼むような谷吉の顔…
そのあまりに必死な谷吉の顔を見て…
みずきは、今の自分と重なるものを感じる。
どんなに好きで…どんなに愛していても、決して振り向いてもらえない…
必死になるほど…空まわりで…。
でも…
「駄目なんだ…、忘れられない…」
戻ってこないのは分かっているけれど…
そう、簡単に忘れてしまえるほど、気持ちは軽いものじゃない…
「…こんな不純な気持ちじゃ…君とは付き合えないから…」
俺の事は諦めてくれと…。
しかし谷吉も諦めるわけにはいかない、瞳を合わせ…
「それでも…それでもいい、鈴鹿君の中で一番じゃなくていい…私は何もせず諦めるのは嫌だから…」
少しの可能性でもかけてみたくなる。
「鈴鹿君…私と付き合ってみて、それでもダメなら諦めるから…」
「…谷吉さん」
そんな必死な言葉に…困ってしまうみずき。
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