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第63話

それをみて谷吉は、また断られると思い… 否定したい気持ちからぽろりと涙が零れる。 「…お願い、だから…諦めたくない…ずっと、ずっと…鈴鹿君の事、好きだった…今でも…」 片手で瞳を抑えながら、必死で思いを伝える谷吉… 見捨てないで… おいていかないで… 捨てられた子猫のような瞳の谷吉。 胸が苦しくなるみずき。 「……」 すっと、涙がつたい零れる谷吉の頬を静かに拭うみずき。 こう、涙を拭って…俺は、押し殺していた想いを告白した…。 アキラは…驚いて…でも、俺の想いを受け入れてくれた。 あの強い心…今でも忘れられない。 自分の行動で記憶を蘇らせるみずき。 ……アキラは、もういない…。 付き合ってみてダメなら諦める…谷吉の言葉。 強い言葉だ…。 諦められるほど俺は強くない… そう、俺は弱いんだ… アキラとは釣り合わないほど…。 ……でも今、確実に分かるのは…アキラは、俺の事を必要としていないと言う事… いや、アキラは…初めから俺を必要としていなかった? 「す、鈴鹿くん…」 涙をやさしく拭ってくれたみずき… 驚きで顔を上げる谷吉。 みずきは複雑な思いながらも…頷き、そして…なぐさめるようにやさしく谷吉の身体を包み込む…。 みずきは、その行動で谷吉の気持ちに応えてしまう。 OKと…。 「えっ…鈴鹿くん!?」 みずきに抱きしめられ驚きと嬉しさで反応できないでいる谷吉。 「…俺の、気持ちが…どこまでいけるか分からないけど…それでも、いいのなら…」 前進するつもりで出した答え… ある人を忘れるために…。 「ううん!ありがとう…嬉しい」 素直に喜ぶ谷吉。 その、恵美の顔を見ると軟弱な理由で付き合おうとしている自分に罪悪感が寄せてくる。 「……」 でも…涙を流してまでも自分を必要としてくれる谷吉を振ることが出来なくて…。 この日から谷吉恵美と付き合いはじめたみずき。 女の子と付き合った事のないみずき… しかし恵美のペースよくみずきをひっぱってくれる。 それが… 余計にアキラを思い出させる。 忘れようとすればするほど、恵美と重なる…。 忘れる事なんて出来ない… やはりこんな気持ちじゃ、真剣に想ってくれている恵美に悪い…。 まだ、付き合いが浅いうちに…言わなくてはいけない。 そう思うが、きっかけがないとなかなか言い出せないみずき。 そんな自分が悲しくなる。 ……数日後。 みずきは恵美を食事に誘い、別れを言う決意を固める。 谷吉恵美は、明るくて素直で可愛いと思う。 でも、どうしてもそれ以上の気持ちは持てない… そう感じてしまったから…。 「…谷吉さん、聞いて欲しい俺の気持ちを…」 「えっ」 真剣な面持ちのみずき… 恵美は不安になる。 「この、一週間近く…谷吉さんと付き合ってみて…」 考えながら言葉にするみずき。 「分かったんだ…やはり、このまま付き合っていくのは…俺にはできない」 真剣に伝えるみずき。 「っど、どうして!?」 急な言葉に動揺を隠せない恵美… 「…理由は、俺自身の気持ちが…まだ、引きずっていて、忘れられない。谷吉さんに悪い所なんてないんだ…一方的で、こんな俺では付き合い続けても谷吉さんを傷つけるだけだから…ごめん」 胸に痛みを感じながらも、本当の想いを伝えるみずき。 「…鈴鹿くん」 ショックを隠せない顔の恵美…言葉に詰まる。 みずきも話せないでいる。 ひとりごとを言うようにポツリという恵美。 「…別れたくないよ、けど…。ううん…でも嬉しかったよ、少しでも私と付き合ってくれて…わがまま聞いてくれて、わかってた…私も鈴鹿くん、そういう人だもん…優しくて一途で…、そういう所が好きだったんだ…うん」 泣きそうな声。 でも堪えて笑いながら言う恵美…。 勝手な自分に罪悪感がまた心を支配するみずき。 「ごめん…谷吉さん」 いたたまれなくて謝ってしまう。 「ううん、謝らないで、私の方こそ鈴鹿くんを困らせて…ごめんね」 頭を下げながら言う恵美。 「そんな、悪いのは俺だから…」 謝らないで欲しい… 「…うん、優しいね…だから好き。羨ましいな…あの人、鈴鹿くんに好きになってもらえるんだから…いいな」 その言葉を複雑に受け止める。 どうすれば、アキラに振り向いてもらえるのか… アキラは…今何処にいるのか… 自分から動かなくては…。

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