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第67話

アキラは伏せたままだったが、しばらくしてゆっくり起き上がる。 「ッイテ、テテッ…手加減ってモンをしらねぇ…ッケホッ」 まだ血がとまらず、口やこめかみを拭っても、じわりとすぐ血が滲む。 壁に身体を預け息をつく… 咳込むと、血が混じる。 右手で自分の顔に触れてみるアキラ。 かなり顔がはれているのが分かる。 「イテェ…ハハ、ッみずきたちの呪いかな…まだ、みずきの方がカッコいいぜ、コホッ、ケホッ…ッ」 体中が痛み、動けそうにない。 その場でしばらく時が過ぎるのを待つ…瞳を閉じて…。 ……そして、どのくらいか時が経って、ジャリっと近くで足音がする。 ふと、気付いてアキラは顔を上げる。 「…ルード、ハハッ…話、聞いてくれるか?」 そこに立つのはルードだった。 アキラは迷わず話かける。 「…さっさと言え!」 冷たく言うルード。 アキラは… 「…おまえと話すにも命がけだな…」 落とされたコートのポケットを探りながら声に出す。 「早く言えよ!」 「あぁ、これ…」 持って来た袋をルードに渡す。 「何だよ、これ」 不信に思う。 「お前がもし、今の生活から抜けたくなったら、その袋の中の封筒をあけてくれ、人生やり直せるから…」 笑うように、ゆっくり伝える。 その声は弱々しい… 「どういう意味だよッ」 袋を受け取り、聞いてしまう。 「オレがお前にしてやれる最後の事だから…お前が、間違いに気付いた時…きっと助けになる。どうか捨てずに、とっておいてくれよ…な」 キズだらけで少しだけ笑うアキラ。 「…なんだよ、そんだけの為に…ボコられてまで、そんな大事なモンなのかよッ」 信じれない様子で怒鳴るルード。 「あぁ…イテテ、お前にとって絶対不利にはならないから…」 そう言いながら身体を庇うように立ち上がり服で口を拭う。 しかし、まだ出血が収まっておらず赤く滲んでくる… その服は袖や胸元が血で赤く染まっている。 「背、伸びたな…少し会わない間に…」 ルードに近づきつつ言うアキラ。 確かにもうアキラよりルードの方が15㎝くらい高いが… 「どーだっていいだろ」 ルードは冷たく言う… 「……ルード、ごめん…」 静かに、その言葉を伝えて、すぐルードの頭を寄せて優しく唇を重ねる…。 静かなキス。 「ッやめろ!」 ルードは驚いて、ドンッとキツくアキラを両手で突き飛ばし、怒鳴ってしまう。 その途端、壁に背中からぶつかって、咳込み…さらに血を吐くアキラ。 それでも… 心は、とても充実していて、感覚が温かかった… ほんの数秒でも、知らない男とは比べものにならないくらい…優しかった。 思わず突き飛ばしてしまって、苦しそうなアキラを見て、ハッと表情を変えるルードだが…何もできず佇んでいる。 「ケホッ、ゴホッ…ルード、ケホッ…オレは、今でもお前の事、愛してる…。でも、もうこれ以上お前を追いかけたりしない…お前に迷惑もかけない…から、安心して、お前には幸せにしないといけない人が、いるんだろ…自分に責任を持って生きて欲しい…そのきっかけが、その袋に入ってるから…オレが話したかったのは…そ、ゆうこと、がんばれよ…ありがとな…」 息をつきかすれた声で、それだけ笑みをうかべながら言って、片手で腹を抑え、壁にそって歩いて行く。 角まで来て、アキラはルードと目線を合わせ、頷いて、路地奥へと消えていった…。 ルードは…追いかける気にはとてもなれなくて、地面を濡らしている血が生々しく、逃げるようにその場を離れる。 アキラは角を曲がって少し歩くが…立っていられなくなりその場に座りこむ。 「ケホッ、ケハッ…ハッ、ははっ…言えた、これで…もう、思い残す事はねぇよな…ケホッ」 かすれた声で一人言。 不意に涙が一筋流れ落ちる…。 また、咳込むアキラ。 「ケホッ、コホッケホッ!…ッハッ、ハァ…やべーな…内臓出血がとまんねぇ…ハァッ」 ぺっと血の混じるつばを吐きすてる。 口の中が鉄くさく、うがいしたいと言う欲求が出るが、身体が重く動いてくれそうにない… (…金、取られたんだったな…銀行いって金おろさねーといけないのに、血だらけじゃ行けねーな…まず服買わねぇと…ってオイオイ、金ないのに、どうやって買うんだか…貧血でおかしくなったかな…) ルードとの出来事は思い返さないようにして、一人で考えて、突っ込みを入れているアキラ。 そのうち血の出過ぎで意識がモウロウとしてきて、しばらくそこで眠むる事にした。 ……その頃ルードは、何も考えず走って待たせている仲間の元へ急ぐ… 前をよく見ていなかったルード… 曲がり角でドンと人にぶつかる。 「!?っすまない」 「ッ!?」 すぐ謝ってきた声… 聞き覚えがあった。 驚くルード。 相手は鈴鹿みずきだ。 みずきも気付いて一瞬動きを止めるが… みずきはアキラを必死で探していた所で… 「…ルード、お前、アキラを知らないか?」 もしかしてと言う気持ちでルードに問う。 「!!」

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