74 / 213

第74話

「…ケ、言われなくても分かってらー!」 「ん、なら、いいんだよ。親が好き勝手やってたら、こっちはたまんねぇもんな…」 そう言いながらヨシから離れるアキラ。 「なんで離れるんだよ、さむいだろ!」 「こたつかよ、オレは…」 「おう!」 熱っぽいアキラは温かいのでこたつ代わりにしていたヨシ。 当然のように答える。 「アホ、オレもう今度こそ寝るからな静かにしろよ」 そう言い、反対側に向き寝そべる。 「ケッ、つまんねー」 ヨシがぼやくと…。 「悪かったねー」 とだけ、返ってくる。 仕方なくヨシは、少しだけ静かにしていたが、何もしていないと落ち着かないヨシ、やはりアキラに話かけてしまう。 「なぁ?…おい、ムッ寝たのか?」 もう反応を返さない。 「…よっ」 声と共に身軽に立ち、自分の部屋へ戻るヨシだった。 ――それから何時か過ぎて真夜中ごろ。 ヨシは、課題のレポートの作成に熱中していた。 時々聞こえるアキラの咳も気になったが、無視しておく。 「…ケホッコホッ、ハ…ハァ、キツー…、こう度々、咳がでちゃ寝るに寝れねぇ」 手に持っているタオルを折りたたみながら腹を触るアキラ。 「痛ぅ…イタタタッ、どうせ寝れないなら…」 そう呟き、することがないかと、あたりを見渡すが、おもしろそうなものが無いので仕方なくベランダに出て風にあたる事にした。 「ケホッ…ッフゥ、やっぱり寒いな…星も出てないか…」 風になびく自分の髪をかき上げながら空を見る。 「ふーん、けっこうイイベランダじゃん…」 見渡しながら一人言をいう。 ふと、何気なく下を見たアキラ。 その視界に入った人影に、ドキッとする… 「え、…みずき!?」 その影は、まっすぐこちらを見ている。 薄暗い中、街灯の明りだけが照らしている。 見つめる瞳が、アキラをぞっとさせる… 視線を外すことすら許さないかのように…刺すような痛い瞳。 アキラの目に、キラッと光るものが見えた… その瞬間、みずきは… 「アキラ!!」 強く呼んで、そのまま手を上げ、持っていたナイフで躊躇いなく左腕を切りつけた… あっという間に…。 アキラはそれを見て驚き止めようと声を出すが… 「ッやめ!…なっ何してんだよッ!バカッ!!」 その声よりもみずきの動きの方が早かった… 少し身を乗り出して言い、すぐその場を離れる。 「ヨシ!ヨシヤスっ!起きてるか、すぐ来てくれっ馬鹿なコトしやがって!」 とりあえずヨシを呼ぶ。 「あ?何だよ」 「外に、いいから来いってっ!!」 あたりを見回して応急手当できそうなものを持ち、早足で外に行く。 走って行くわけにはいかないから… 「……」 片腕を血の色に染めて、道の端にうずくまるみずき。 「バカやろっ!何やってんだよッ」 アキラは一声怒鳴って近寄る、止血しようとみずきの手を取ろうとした時… 「わっ…!オイッ馬鹿っ、そんなコトしてる場合じゃねぇだろ!」 ギュッとみずきはアキラを抱きしめている。 放さない… ヨシから借りた服がみずきの血で赤く染まっていく…。 「離したくない…」 ぽつりと話すみずき… 震える手、その瞳からは涙が零れる。 「なんなんだよ、何…!!」 状況は理解できないが、出て来たヨシ… みずきの血を流した姿にも驚いたが、それ以上にみずきの涙にドキッとする。 はじめて見た、みずきの演技じゃない…本当に泣く姿。 みずきはしっかりとアキラを抱きしめている。 「…みずき、バカ!泣くなッ、腕見せろ、話しは後だ。ったく、もう!」 みずきの顔に触れて、そう言い聞かすようにし、腕の傷を見るアキラ。 「…とりあえず、止血。ここじゃ暗くてこれ以上できないから…ヨシ、みずき家に上げていい?」 まだ、呆然とみているヨシ。 「…あ、あぁ」 言われて返事をする。 「…ほら、立てよ!ッケホッ、コホッケホッ!」 また少し咳込むアキラ、すっと身体を支えてくるみずき。 心配している顔… アキラから手を離さない。 「…っオレはいいから、ヨシ?みずきを連れて行ってやれよ、ぼーっとしてないで!ケホッ、ハァ、ハァ…ッ」 アキラの声で、ようやく動きだすヨシ。 「あ、あぁ…大丈夫かよ」 みずきに向かって言う。 それでも無視するようにアキラの手を引くみずき。 「みずき…?」 ヨシは呼ぶが… 「ほら!行けってみずきッ!」 怒ったようにアキラに言われ、やっと動きだす。 家の中に入り、ヨシにはコンビニへ包帯を買いに行かせる。 アキラは部屋でみずきの腕の手当をしつつ、怒鳴る。 「何でこんな事したんだよッ!」 「…話、したかったから、お前と…」 ポツリと答える。

ともだちにシェアしよう!