76 / 213
第76話
「そんな事はない、アキラは優しいし…こうして俺の手当もしてくれた。俺はアキラをいつも見守っていたい、別れたくないんだ…お前もアキラさえも、俺は、騙されていると言うが、俺の意思だ…俺のわがままなんだ…」
真剣な瞳で言う。
「…本気、なんだな…」
みずきの瞳に嘘はない、ヨシは、少し考えるように黙る。
そして…ヨシは、ちらっとみずきを見て続けて言う。
「…みずき…俺、オマエに謝らなきゃならねぇ事がある。アキラにお前をフルように言ったのは俺なんだ、アイツがキオクソウシツのフリなんかして…あ、あの時な、キスしてたのは、奴を試してたんだよ、本当に記憶なくしてんのか怪しかったから、あんの上、ボロだしやがって、そこにちょうどお前がやってきてよ、ムカついてたからヤツあたりで殴っちまったんだ…だってよ、奴もけっこう頭キレるだろ、あのくらいしねぇとウソ見いだせねぇからよ。悪かったな…」
ヨシの言葉を聞いて沈黙してしまうみずき。
「あ、怒ってる?やっぱ、そこ言いにくいんだけど、アキラが男と遊びまわったのも少しは俺が言ったことが原因なんだよ」
「…!やはり、オマエが?」
キッとヨシを睨む。
ヨシはたじっとなって…
「ちょ、少しだけな、俺はとにかく、みずきに嫌われるようなコトしろって言ったらワカんねぇって言うから、お前が好きな奴にしてほしくねぇ事したらイイだろって言ったらあぁいう事しやがったんだ…」
素直に説明する。
「…どうしてお前は、俺とアキラを別れさせたいんだ?」
みずきは思っていた事を聞いてみる。
「それは、オマエの為を思ってんだろ、アイツだってワカってるハズだ、男の自分じゃ、みずきの未来潰してるだけだろ、アキラは別にイイんだろうけど、マジメなみずきまで、巻き込むなって言ってやったんだよ!」
「…未来?どういう事だ」
「だから、日本じゃ男同士でケッコンとかできねぇだろ、アキラと付き合っていくって事は、家庭が持てねぇってコト、お前、長男なんだろ?それじゃダメだろ?」
みずきに聞くように問う。
「…?俺は、一生、家庭をもたなくてもいい、その方がかえっていい」
「オイオイ、マジかぁ!?」
みずきの言葉に驚くヨシだが…
みずきは…
「…俺は、家庭を持ったとしても、やしなっていく自信もないし…俺自身できそうもない…」
父さんに出来なかったこと…
俺に出来るとは思えない…
けれど、一人のひとを幸せにするくらいなら…俺にも…
付け足して思う。
「そう言われちゃなぁ…」
ヨシは首をかしげる。
「反対していたのはそれだけなのか?」
「ま、まぁ…プラス、おめーアキラばっかりヒイキして俺の話、聞いてくれないじゃねぇか、すっげぇ悩み事あったのに、話そうとしてもうわの空だしよ、それが少しムカつた…」
「すまない…それは…」
素直に謝るみずきを見てヨシは…
「わかったならイイよ、今度、ちゃんと聞いてくれるんならな…」
ニッと笑い言う。
「あぁ、俺が悪かった…」
頷き、ヨシに謝るみずき。
「……今日さ、ヤツといろいろ話して、分かった事があるんだよ」
ヨシがポツリと話出す。
「わかったコト?」
みずきも聞き返す。
「前…、アキラにみずきと別れるように言った時、アキラが『少しくらい人に甘えて愛されて生きたっていいじゃないか』って泣きながら言いやがったんだよ、そん時は、何言ってんだコイツとか、思ったんだけど…何か、少しワカッタような気がする、金持ちだから、幸せに暮らせるってわけじゃねーってコトが…」
「…アキラ」
ヨシの言葉を聞きアキラの様子が気になるみずき。
「なんかヤツってフツーに愛するのも愛されるのも苦手なんだろーな、慣れてねぇみてーだから、自分売って愛を買うみてーに、後ろめたいよな、それじゃ本当じゃないから…ムズカシイと思うぜ、今の奴GETすんの…でも、愛されたそうにしてたから…ほら、行ってこいよ、みずき。今から俺はお前の味方だぜ!」
ニコッと笑ってみずきの肩を押す。
「あぁ、ありがとう…ヨシ」
優しく笑い返す。
「おう!俺は部屋戻るから」
ヨシも応えて動き出す。
そのヨシを見送り、みずきもアキラのいる洗面所へと入る。
(アキラ…!)
部屋に入って見渡すと、一番奥の所で、壁に寄りかかり座って静かに眠っているアキラが見えた。
そばに寄り、アキラの寝息を確認して少し安心するみずき。
ちょうど、目にとまったタオルケットを、そっと掛けてやる。
腕の怪我がなければソファまで運んでやるところだが…
みずきは、アキラの横にスッと座る。
痛々しい顔…
疲れきって眠っているように見える。
アキラの…近くに居られるだけで、こんなにも幸せなのだから…
アキラをやさしく見つめるみずき。
アキラは…愛される事に慣れていなくて、俺の気持ちを受け入れられないでいるのかもしれない…
愛される事から逃げて、一人になろうとする。
一人でなんでも進めてしまう。
もう、休めばいいのに…
なにもかも一人ですることなんかない…
俺が、力になるのに…
そう、心に思いながら、アキラの肩をみずきは片手で静かに寄せる。
その動きにも起きる気配はない。
熱い身体…自分にもたれ眠るアキラ。
しばらく、このまま時が過ぎてゆく…。
「…ッケホッ!コホッケホッ、ッーケホッ!ハッハァ…ッ」
急に激しく咳込んで動き出す。
「大丈夫か…しっかりしろ」
背をさする仕種のみずき。
「…ッ!ハァ、ッ、みずき…ッ」
それを押し退けるように下がって名前を呼ぶアキラ。
みずきは、その瞳が合うと…
「……アキラ、改めて言う、俺と付き合って欲しい。好きだから、愛しているから、一緒に居たいんだ…」
とても真剣に、まっすぐ見つめながら気持ちを伝える。
ともだちにシェアしよう!